完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花

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28話

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扉を開くと中は色とりどりの文房具が溢れている。
キラキラと輝く様子はまるで宝石箱のようで、見ているだけでも美しい。

「ガラスペンとインクをいただきたいの…見せていただける?」

フェンリエッタが店員に頼むと、どうぞと奧へ通された。

「ベル、どんな色が好きかしら?ガラスペンは全部が手作りだから一期一会なのよ、私も持っているけれど…」

並べられていくペンに色とりどりのインク。
フェンリエッタは主に知人への手紙等に使用している。
深い赤のインクに薄赤色のペンがお気に入りだった。

「どれも素敵ですね」

そう言いながらもベルナルドの視線は一本のガラスペンに注がれている。
きっとそれにするのだろう。
薄い水色がついているかいないかわからないペン軸の中はキラキラとラメが入ったように輝いている。
全部のペンを見てから、やはりそのペン軸を手に取り握った感じなどを確認している。

「これに」
「インクは?」
「紫を」

それは即決なのね?
フェンリエッタは小さく笑うと、店員に包んでくださる?と、お願いをした。
支払いを済ませて、商品を待っている間に、他も見てまわる。
学生たちが好きそうな文具を中心に揃えてあり、見ていて可愛らしい。

「フェン、ありがとうございます」
「こちらこそ」

色々とベルナルドには無理を言っている自覚はある。
人として尊敬もできる。
どこぞの王子と婚約していた自分が馬鹿みたいだと思ったフェンリエッタは、ふと動きを止めた。
ベルナルドなら婚約してもいいと思っているの?
いくら申し出があったからって…
お父様の許可もあるからと言って…
ベルナルドは私と婚約して何か利点があるのかしら。

フェンリエッタの思考は外出先だと言うのにぐるぐると回転し始める。

「フェン、フェン!大丈夫ですか?具合が悪いなら帰りましょう、歩けますか?」

ベルナルドの囁きにハッと意識を取り戻してフェンリエッタはにこりと笑った。

「大丈夫よ、ベルありがとう。ふと気になったことがあってね…でも、大丈夫…帰ったら少しお話がしたいから、残ってくださる?」
「えぇ、構いませんよ」

丁度、ガラスペンが出来上がり、重厚な紙袋に入ったそれは、ベルナルドが大切そうに手にした。
ベルナルドに聞きたいこと、告げること。
何が正しいのかはフェンリエッタにはわからない。
それでも進まなければならないのかもしれない。
流れる雲を見上げて、フェンリエッタはこれからの事を愁うのだった。
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