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25話
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馬車が停まり外側に扉が開く。
空気が変わるその瞬間がフェンリエッタは好きだった。
貴族街の一部だが、それでも屋敷などが建ち並ぶあたりとは趣が違う。
ベルナルドが差し出した手を取り馬車から降りると見慣れた街並み。
「ベルは、来たことありまして?」
「時折、ですかね…学院にいれば大概のものは揃いますから息抜きくらいに来ていました」
「そう。楽しいわよね…見るもの全てが新鮮だもの」
フェンリエッタはこの雑多な雰囲気が好きだった。
あまり頻繁には来られなかったが、学院の友達とも来たことがある。
「ベル…手袋を買いたいの…恥ずかしい訳ではないけれど、少し…その、目立つでしょう?」
聖痕もそうだが、今までは小指にある婚約の証を見せる為に、手袋をしてこなかったというのもある。
それに、ベルナルドに借りた手袋も返せていない。
「気になるのであれば、一緒に選びましょうか…」
嫌な顔をしないベルナルドに導かれながら歩く。
「フェン、あちらの店はいかがですか?」
ベルナルドが指をさしたのは花の看板が掛かった可愛らしい洋品店だった。
「可愛いお店ですね、いいですか?」
「もちろん」
普段使いの物には可愛らし過ぎるが、今日の装いにはいいだろう。
フェンリエッタはそんなベルナルドの気遣いが嬉しいと感じる。
そして店内で購入したのはモスグリーンのレース手袋。
柔らかなレースは手に優しくフィットする。
「ありがとうございます、私のはありましたけど、ベルナルドのはありませんでしたね…」
「フェンの買い物をするのが目的ですからね、私のものはまた今度で構いませんから」
また、今度がある。
「フェン、少し休みましょうか、まだ本調子ではないでしょう」
ベルナルドが促すのは赤白屋根の可愛いカフェだった。
「えぇ、では少し」
自分の知らないところで疲労を感じているのだろう。
その店に入ろうとした所、見た顔が前を横切る。
「マリア様?」
フェンリエッタの口からはその名前が零れる。
マリアが腕を絡めた男性は誰?
にこやかに笑う姿は愛らしい。
だが、その相手はフェルディナンドではないのだ。
そしてその男性にあろうことか往来でキスをする。
「ベル…違う店に…」
フェンリエッタはベルナルドの服の裾を握り締める。
「大丈夫ですよ、何かあれば私が守りますから」
握られた手。
嫌な予感しかしないフェンリエッタは心を落ち着けようと目を伏せた。
空気が変わるその瞬間がフェンリエッタは好きだった。
貴族街の一部だが、それでも屋敷などが建ち並ぶあたりとは趣が違う。
ベルナルドが差し出した手を取り馬車から降りると見慣れた街並み。
「ベルは、来たことありまして?」
「時折、ですかね…学院にいれば大概のものは揃いますから息抜きくらいに来ていました」
「そう。楽しいわよね…見るもの全てが新鮮だもの」
フェンリエッタはこの雑多な雰囲気が好きだった。
あまり頻繁には来られなかったが、学院の友達とも来たことがある。
「ベル…手袋を買いたいの…恥ずかしい訳ではないけれど、少し…その、目立つでしょう?」
聖痕もそうだが、今までは小指にある婚約の証を見せる為に、手袋をしてこなかったというのもある。
それに、ベルナルドに借りた手袋も返せていない。
「気になるのであれば、一緒に選びましょうか…」
嫌な顔をしないベルナルドに導かれながら歩く。
「フェン、あちらの店はいかがですか?」
ベルナルドが指をさしたのは花の看板が掛かった可愛らしい洋品店だった。
「可愛いお店ですね、いいですか?」
「もちろん」
普段使いの物には可愛らし過ぎるが、今日の装いにはいいだろう。
フェンリエッタはそんなベルナルドの気遣いが嬉しいと感じる。
そして店内で購入したのはモスグリーンのレース手袋。
柔らかなレースは手に優しくフィットする。
「ありがとうございます、私のはありましたけど、ベルナルドのはありませんでしたね…」
「フェンの買い物をするのが目的ですからね、私のものはまた今度で構いませんから」
また、今度がある。
「フェン、少し休みましょうか、まだ本調子ではないでしょう」
ベルナルドが促すのは赤白屋根の可愛いカフェだった。
「えぇ、では少し」
自分の知らないところで疲労を感じているのだろう。
その店に入ろうとした所、見た顔が前を横切る。
「マリア様?」
フェンリエッタの口からはその名前が零れる。
マリアが腕を絡めた男性は誰?
にこやかに笑う姿は愛らしい。
だが、その相手はフェルディナンドではないのだ。
そしてその男性にあろうことか往来でキスをする。
「ベル…違う店に…」
フェンリエッタはベルナルドの服の裾を握り締める。
「大丈夫ですよ、何かあれば私が守りますから」
握られた手。
嫌な予感しかしないフェンリエッタは心を落ち着けようと目を伏せた。
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