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5話

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「本当にこれは、聖痕なのかしら」

自分の手の甲を見るも、数刻前には無かったもの。
綺麗に整えた爪と、痣のあった小指。
今日に限っては何も装身具を指にはしていなかった。

「気になるようでしたら、部屋に戻るまでは、こちらをどうぞ」

ベルナルドが差し出してきたのは真っ白な手袋だった。
ただ、それは男物で…

「お借りします、返すのは洗ってからになりますが、いつこの国を発たれますの?」

留学生と聞いている。
それならば帰国をするだろう。

「フェンリエッタ嬢に婚約の許可を貰うまではこの国に留まろうかと」
「まだ、そんな事を仰るの?私、婚約破棄をされた傷物ですことよ?そんな女を妻にだなんて酔狂ですわ」

借りた手袋を填めるも、指先は余るしかなり大きい。
ただ、白い手袋の手首の辺りに銀色で竜の紋様が見えた。

「そんなことはありませんよ、フェンリエッタ嬢?貴女は綺麗だ……」
「全く……口が上手くていらっしゃるのね」

ベルナルドは入学してから今まで浮いた話を聞いたことがない。
誰かと付き合うという話も無かった。

「フェンリエッタ嬢の手の甲に聖痕が出たと言うことは、そう言うことなのでしょう」

ベルナルドの大きな手が手袋ごと私の手を包む。
聖痕が浮かぶと言うことは乙女でないといけないのだ。
フェンリエッタはそう言うことをして来なかった。
勿論、王家に嫁ぐからである。
王家の血筋に他のものを混ぜないようにと、初夜は何人もの人間に囲まれて破瓜の印を見られなければならないのだ。
その恥辱に耐えてこそだと育てられてきている。
そのため、貴族の血をひく聖女の中から伴侶が選ばれる事もあった。

ただ、ここ数十年、聖女は現れていない。
だから、フェルディナンドのお妃候補が年も近いフェンリエッタに決まったのだ。
フェルディナンドとの婚約をしたのが9歳のとき。
それを10歳まで引き伸ばせば、その時に聖痕が現れていたのかもしれないとベルナルドは言った。

「そんなことがあるのかしら……聞いたことがないわ」

フェンリエッタは小さく呟いた。
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