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4話

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その頃、舞踏会場は静かに曲が流れるだけ。
誰一人として踊り出すペアはいない。
目の前で繰り広げられた婚約破棄の一幕を見ていたからだ。
それに、その渦中にいた人間の片方はもうこの場を退出している。

「なぜ踊り始めぬのだ」

曲はかかるが誰も立ったまま。
痺れを切らしたフェルディナンドの声にそれでも周囲は誰も動かない。
いや、動けないのだ。
高貴な者から踊り始める。
それが社交界の鉄則。
この場にいるのは王子が最も高貴な身分であるが、その相手は男爵令嬢。
それに婚約もなにもしていないただの女性なのだ。
学生という身分で見れば此処に要る全員の身分は同じたが、このような場合はどうしたらいいのか、フェンリエッタやベルナルドがいれば一笑し、自由に踊れば良いと言いそうな気がするが、そのふたりが退席しており、それ以外に誰も声を上げる者がいない。
また、この舞踏会は卒業生徒の社交の場であるために、教師は一切立ち入っていないため音頭をとるものがいなかった。

「フェルディナンド様、私達が踊らなければ誰も踊れないでしょう?」
「そうか、ならば…」

フェルディナンドは、マリアの手を取り中央まで歩み出る。
ホールドをしてからふたりは音楽に合わせて足を踏み出した。
端から見て、それは決して上手い動きではない。
フェルディナンドのリードは女性を振り回し、マリアの動きは周囲に見せつけるようなしなだれかかり方を男にしている。
生徒達からは失笑が漏れているのにふたりはふたりだけの世界を作ってしまっているのだろう。
誰も生徒達が動かないのに気付かない。
そして、曲が終わって足を止めた瞬間、他の生徒達はハッとしてから慌てて拍手を贈った。

誰も踊っていなかったホールが自分達だけのもののように勘違いしたふたりは軽く抱き合ってキスを交わしてからゆっくり歩き出す。

マリアの口が早くふたりきりになりたいわとフェルディナンドの耳元で動いたのを見逃さなかった生徒が何人もいる。
決して艶かしい身体をしているわけではないし、顔も特段飛び抜けているわけでも、親の爵位が高いわけでもない。
どうして王子が首を傾げる者と察する者とがでてきた。

ぴったりと寄り添いなが、出口手前で立ち止まると、フェルディナンドは手を軽く頭の横に上げる。

「今宵は皆も楽しんでくれ」

振り返りながらそう口にしたフェルディナンドは他の言葉を聞くこともなく会場を出ていく。
パタリと閉まった扉。
会場の中はざわざわと先程の事件についてざわめいていた。


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