上 下
29 / 57
1章

145話

しおりを挟む
「アスミタ、ミリシャにこちらへ来るように伝言をお願い」
俺はアスミタに頼む。
軟らかなピンクの髪を結い上げているアスミタは、畏まりましたと頭を下げてから踵を返す。
パタンと閉まった扉を見つめてから俺は息を吐き出した。
体調が悪い。
竜神の加護を貰っているはずなのに。
それをカイルは知っているから、やはり心配を掛けているのだろう。
だけど、特に竜神は何も言っていなかったから加護がどうにかなった訳では無いのだと思う。
俺は手元の地図を見る。
今いる場所から、離れた場所に書かれたバツ印。
離宮。
バルナがあった証の遺跡が残る場所。
そこへそっと指で触れた。
地図上では何ともない距離が、馬で行くと数日かかる。
まだ、この地には水がない。
だから、竜神も居ないのだ。
花が咲き草が根付いてはいるのだが。
いつか昔のようになって賑わいを取り戻して欲しいとは思うけれど、俺には祈ることしかできないのだ。
「テト様、ミリシャ様が間もなくいらっしゃいます」
「うん、ミリシャに果実水と焼き菓子があれば少し用意をして?」
「こちらに」
戻ってきたアスミタは、既にミリシャを迎える準備万端だった。
しかも、一緒に来るであろう双子の分まで完璧だ。
「お母様、ミリシャです」
「入りなさい」
扉へノックがあり、可愛らしい声がかかる。それへ応答すると扉が静かに開いた。
入ってきたのはミリシャと双子。
ただし、双子は竜神の姿だった。
『テト、なんじゃ』
『かかさま、戻ったか』
「ミリシャまずは座りなさい」
ミリシャを座らせると、手をのばし空中に浮く双子にそっと触れた。
青みが強い竜神にはニイラ、緑が強い竜神にはリュイとミリシャが名付けた。
「おはようございます、ニイラ、リュイ。焼き菓子を用意してありますのでどうぞ」
きっと、ミリシャとの食事の時に食べているだろうがまだ食べるか聞いてみる。
食べなければおやすみの時間になるだろう。
『うむ、焼き菓子より我は冷たいものを所望する』
『我も』
そう言った二人の前に運ばれてきたのは美しく固めたられたゼリー。
流石アスミタぬかりない。
双子はそれぞれ人型となり、ソファーとローテーブルに用意されたゼリーを食べにそちらに座った。
「ミリシャ、双子と王都の竜神様以外の竜神様に会いたいと思う?」
俺は端的に問いかける。
ミリシャは言ったことが直ぐに理解ができなかったのか首を傾げた。
「前からお話しをしていますが、王都以外の都市で水がある場所には大小の竜神様がいらっしゃるのですが、ミリシャに合うなら王都に集まってもいいとのこと。ミリシャはどうしたい?」
本当はミリシャに聞く必要は無いのだ。
竜神様が来てくださると言っているのが優先なのだから。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

転生したいらない子は異世界お兄さんたちに守護られ中! 薔薇と雄鹿と宝石と

夕張さばみそ
BL
旧題:薔薇と雄鹿と宝石と。~転生先で人外さんに愛され過ぎてクッキーが美味しいです~ 目が覚めると森の中にいた少年・雪夜は、わけもわからないままゴロツキに絡まれているところを美貌の公爵・ローゼンに助けられる。 転生した先は 華族、樹族、鉱族の人外たちが支配する『ニンゲン』がいない世界。 たまに現れる『ニンゲン』は珍味・力を増す霊薬・美の妙薬として人外たちに食べられてしまうのだという。 折角転生したというのに大ピンチ! でも、そんなことはつゆしらず、自分を助けてくれた華族のローゼンに懐く雪夜。 初めは冷たい態度をとっていたローゼンだが、そんな雪夜に心を開くようになり――。 優しい世界は最高なのでクッキーを食べます!  溺愛される雪夜の前には樹族、鉱族の青年たちも現れて…… ……という、ニンゲンの子供が人外おにいさん達と出逢い、大人編でLOVEになりますが、幼少期はお兄さん達に育てられる健全ホノボノ異世界ライフな感じです。(※大人編は性描写を含みます) ※主人公の幼児に辛い過去があったり、モブが八つ裂きにされたりする描写がありますが、基本的にハピエン前提の異世界ハッピー溺愛ハーレムものです。 ※大人編では残酷描写、鬱展開、性描写(3P)等が入ります。 ※書籍化決定しました~!(涙)ありがとうございます!(涙) アルファポリス様からタイトルが 『転生したいらない子は異世界お兄さんたちに守護られ中!(副題・薔薇と雄鹿と宝石と)』で 発売中です! イラストレーター様は一為先生です(涙)ありがたや……(涙) なお出版契約に基づき、子供編は来月の刊行日前に非公開となります。 大人編(2部)は盛大なネタバレを含む為、2月20日(火)に非公開となります。申し訳ありません……(シワシワ顔) ※大人編公開につきましては、現在書籍化したばかりで、大人編という最大のネタバレ部分が 公開中なのは宜しくないのではという話で、一時的に非公開にさせて頂いております(申し訳ありません) まだ今後がどうなるか未確定で、私からは詳細を申し上げれる状態ではありませんが、 続報がわかり次第、近況ボードやX(https://twitter.com/mohikanhyatthaa)の方で 直ぐに告知させていただきたいと思っております……! 結末も! 大人の雪夜も! いっぱいたくさん! 見てもらいたいのでッッ!!(涙)

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。