転移先で砂漠の王子に愛されています

梅花

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1章

145話

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「アスミタ、ミリシャにこちらへ来るように伝言をお願い」
俺はアスミタに頼む。
軟らかなピンクの髪を結い上げているアスミタは、畏まりましたと頭を下げてから踵を返す。
パタンと閉まった扉を見つめてから俺は息を吐き出した。
体調が悪い。
竜神の加護を貰っているはずなのに。
それをカイルは知っているから、やはり心配を掛けているのだろう。
だけど、特に竜神は何も言っていなかったから加護がどうにかなった訳では無いのだと思う。
俺は手元の地図を見る。
今いる場所から、離れた場所に書かれたバツ印。
離宮。
バルナがあった証の遺跡が残る場所。
そこへそっと指で触れた。
地図上では何ともない距離が、馬で行くと数日かかる。
まだ、この地には水がない。
だから、竜神も居ないのだ。
花が咲き草が根付いてはいるのだが。
いつか昔のようになって賑わいを取り戻して欲しいとは思うけれど、俺には祈ることしかできないのだ。
「テト様、ミリシャ様が間もなくいらっしゃいます」
「うん、ミリシャに果実水と焼き菓子があれば少し用意をして?」
「こちらに」
戻ってきたアスミタは、既にミリシャを迎える準備万端だった。
しかも、一緒に来るであろう双子の分まで完璧だ。
「お母様、ミリシャです」
「入りなさい」
扉へノックがあり、可愛らしい声がかかる。それへ応答すると扉が静かに開いた。
入ってきたのはミリシャと双子。
ただし、双子は竜神の姿だった。
『テト、なんじゃ』
『かかさま、戻ったか』
「ミリシャまずは座りなさい」
ミリシャを座らせると、手をのばし空中に浮く双子にそっと触れた。
青みが強い竜神にはニイラ、緑が強い竜神にはリュイとミリシャが名付けた。
「おはようございます、ニイラ、リュイ。焼き菓子を用意してありますのでどうぞ」
きっと、ミリシャとの食事の時に食べているだろうがまだ食べるか聞いてみる。
食べなければおやすみの時間になるだろう。
『うむ、焼き菓子より我は冷たいものを所望する』
『我も』
そう言った二人の前に運ばれてきたのは美しく固めたられたゼリー。
流石アスミタぬかりない。
双子はそれぞれ人型となり、ソファーとローテーブルに用意されたゼリーを食べにそちらに座った。
「ミリシャ、双子と王都の竜神様以外の竜神様に会いたいと思う?」
俺は端的に問いかける。
ミリシャは言ったことが直ぐに理解ができなかったのか首を傾げた。
「前からお話しをしていますが、王都以外の都市で水がある場所には大小の竜神様がいらっしゃるのですが、ミリシャに合うなら王都に集まってもいいとのこと。ミリシャはどうしたい?」
本当はミリシャに聞く必要は無いのだ。
竜神様が来てくださると言っているのが優先なのだから。
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