41 / 61
2章
1話
しおりを挟む
「陛下どうされましたか?」
眉間に皺を寄せたカイルが小さく溜め息を吐いた。
此処はアルーディアの王の執務室だ。
その長椅子に腰掛けたまま、国王であるカイルは困ったように天井を見上げて目を伏せた。
溜め息の理由は最近どうも隣国と色々とあるようで、悩みの種は尽きないようだ。
視線をこちらに戻したカイルが手招きをする。
「フィナシェからの使者が交易の事で色々とあってな」
「そうですか。香辛料の取引ですか?」
「それもあるが、フィナシェの王が代替わりをするらしい」
アルーディアの王都から砂漠を抜けて馬で十五日、国境を抜けた先にそのフィナシェがある。
フィナシェの国境近くはアルーディアと似て砂漠に近いが、そこからフィナシェの王都までは草木が茂る。
「それで、何が書いてあったのでしょうか」
「私とテトに式典の参加をして欲しいのだと。そして召喚の儀式も一緒にするようだ」
カイルが大袈裟な溜め息を吐いて見せる。
「テトこちらへ」
椅子に座ったまま自分の膝をぽんと叩いたカイル。
その膝へそっと座る。
「どうするの?」
陛下から、伴侶の顔になるカイルを軽く見上げるようにして問い掛ける。
ミリシャを置いていくことになるが、それは公務なら仕方ない。
聞き分けが良くなっているから大丈夫だろう。
それより気になるのは【召喚の儀式】という言葉。
「テトの過去があるから、不思議な力が働くことは知っているが、大々的に儀式をするなどとアルーディアでは考えられない……だが、それは他国の事だからな下手に干渉できない」
「それって、成功するの?召喚されるのは、やっぱり人なんだよね?」
「その筈だが、何とも言えない……アルーディアにはそんな儀式は無いからな」
困ったなとカイルが自分の顎を撫でる。
これはカイルが考え事をするときの癖で、今は静かに脳がフル回転しているのだろう。
「その儀式に俺たちも参加しなきゃダメなのかな」
召喚する方よりもされる方の気持ちを気にしてしまうのは自分がそういう思いをしたからなのだ。
カイルもそれをわかっている。
「嫌なら即位の儀式にも欠席で構わない。まだ日はあるからゆっくりと考えよう」
心配するな。
そうカイルが抱き締めてくれる。
優しい腕の中に身体を預けて俺は小さく頷いた。
☆☆☆☆☆☆☆
2章、他国のお話にしてみようかとプロットを練っていますが、プロローグで1章の主人公に出て貰いました。
反響があれば続きを書くかもしれませんので、ご意見等いただければ嬉しいです。
眉間に皺を寄せたカイルが小さく溜め息を吐いた。
此処はアルーディアの王の執務室だ。
その長椅子に腰掛けたまま、国王であるカイルは困ったように天井を見上げて目を伏せた。
溜め息の理由は最近どうも隣国と色々とあるようで、悩みの種は尽きないようだ。
視線をこちらに戻したカイルが手招きをする。
「フィナシェからの使者が交易の事で色々とあってな」
「そうですか。香辛料の取引ですか?」
「それもあるが、フィナシェの王が代替わりをするらしい」
アルーディアの王都から砂漠を抜けて馬で十五日、国境を抜けた先にそのフィナシェがある。
フィナシェの国境近くはアルーディアと似て砂漠に近いが、そこからフィナシェの王都までは草木が茂る。
「それで、何が書いてあったのでしょうか」
「私とテトに式典の参加をして欲しいのだと。そして召喚の儀式も一緒にするようだ」
カイルが大袈裟な溜め息を吐いて見せる。
「テトこちらへ」
椅子に座ったまま自分の膝をぽんと叩いたカイル。
その膝へそっと座る。
「どうするの?」
陛下から、伴侶の顔になるカイルを軽く見上げるようにして問い掛ける。
ミリシャを置いていくことになるが、それは公務なら仕方ない。
聞き分けが良くなっているから大丈夫だろう。
それより気になるのは【召喚の儀式】という言葉。
「テトの過去があるから、不思議な力が働くことは知っているが、大々的に儀式をするなどとアルーディアでは考えられない……だが、それは他国の事だからな下手に干渉できない」
「それって、成功するの?召喚されるのは、やっぱり人なんだよね?」
「その筈だが、何とも言えない……アルーディアにはそんな儀式は無いからな」
困ったなとカイルが自分の顎を撫でる。
これはカイルが考え事をするときの癖で、今は静かに脳がフル回転しているのだろう。
「その儀式に俺たちも参加しなきゃダメなのかな」
召喚する方よりもされる方の気持ちを気にしてしまうのは自分がそういう思いをしたからなのだ。
カイルもそれをわかっている。
「嫌なら即位の儀式にも欠席で構わない。まだ日はあるからゆっくりと考えよう」
心配するな。
そうカイルが抱き締めてくれる。
優しい腕の中に身体を預けて俺は小さく頷いた。
☆☆☆☆☆☆☆
2章、他国のお話にしてみようかとプロットを練っていますが、プロローグで1章の主人公に出て貰いました。
反響があれば続きを書くかもしれませんので、ご意見等いただければ嬉しいです。
66
お気に入りに追加
3,868
あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
嵌められた悪役令息の行く末は、
珈琲きの子
BL
【書籍化します◆アンダルシュノベルズ様より刊行】
公爵令息エミール・ダイヤモンドは婚約相手の第二王子から婚約破棄を言い渡される。同時に学内で起きた一連の事件の責任を取らされ、牢獄へと収容された。
一ヶ月も経たずに相手を挿げ替えて行われた第二王子の結婚式。他国からの参列者は首をかしげる。その中でも帝国の皇太子シグヴァルトはエミールの姿が見えないことに不信感を抱いた。そして皇太子は祝いの席でこう問うた。
「殿下の横においでになるのはどなたですか?」と。
帝国皇太子のシグヴァルトと、悪役令息に仕立て上げられたエミールのこれからについて。
【タンザナイト王国編】完結
【アレクサンドライト帝国編】完結
【精霊使い編】連載中
※web連載時と書籍では多少設定が変わっている点があります。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。