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1章

136話 彼の地へ カイル視点

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「カイル?」
「どうした?」

足の間にすっぽりと入ってしまう大きさの身体なのに、舞を舞い、祈りを捧げる時は大きく見える。
深夜の語らい中に、テトが珍しく膝の中に座ってきた。

「美味しいよ?」

飲んでみる?と、温かいジンジャーミルクティーが入ったカップを両手で持つと、息を吹き掛け冷ましながら飲んでいる。

「そうか、最近は夜は少し肌寒いからな……風邪に気を付けてくれ、テトは身体が弱い」
「普通です。カイルが元気なんだよ?風邪とか引かないし、体調を崩さないもんね?体調を崩しても周囲に黙って公務していたりするから、心配ではあるけどね」

腕の中で笑う愛しい存在。

「俺も、だいぶ暑いのは慣れてきたし」

加護を持つテトは、多少の暑さならば気にはならないらしいが、無理をすると身体を壊す事も無くはない。
最近は竜神の力も均衡を保ち、気温が下がってきたこともあり貯水事業も本格化してきたが、その陣頭指揮を取るのがテトなのだ。
水路を建設する知識を伝え、場所を決めて少しずつ進めていくのと同時に現在ある水場の確保と維持は勿論、竜神の願いを聞き取れるのか、いち早く干魃を察知すると自ら赴くのだ。
ミリシャが手がかからなくなったため、単騎で駆け出すこともありアスミタが慌ててその後を追う事も多かった。
王という役柄上、王都を離れる事ができない自分に歯痒さもある。

「そうだな、もう少ししたら気候も落ち着くだろうし、記念日だからまた出掛けよう?」
「今年も行ける?」
「勿論だ」

テトが落ちた泉のあったあの場所だ。
どんなに忙しかろうとも毎年同じ時期に訪れる事にしている。

「ありがとう、今年も種を蒔こうかと思って……少しでも根付いてくれていたらいいけれど」

砂を持ち帰った後に、その砂を使って咲かせた花は今や王宮の所々に咲き誇っている。
テトの母親が好きだったという花は、いつの間にかテトを表す花となった。
そして、少しずつ集められた種をこうして持っていく。
今ではテトが歩いた標のように、王都から街道を飾り離宮まで点在して花を咲かせている。
それは、水の無い砂漠でもちらほらと見て取れる。
不思議な現象だった。

「きっと、今年も昨年よりは沢山の花が見られるだろう」
「不思議だよね、砂漠にも咲くんだから」
「そうだな、水脈を辿るように咲いているから、オアシスを探すのに旅人の標にもなっていると聞く。だからテトは旅人から神だと讃えられるのだ」
「大袈裟だよね、俺は何もしていないのに」

振り向いたその頬に軽く口吻けをして、揺れる髪を撫でる。
何があっても守りたい。
自分にとって、大切なものなのだ。
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