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花祭
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「おはようテト」
先に起き出したカイル様のキスを受けて目を覚ますと、外は光に溢れていた。
「おはよう……えっ!今何時?」
あたたかい腕に包まれて深い眠りに落ちていた俺は慌てて寝台脇の水時計を見やる。
「まだいつもの起床と同じくらいの時間だ。支度をしてから食事にしよう」
「はい、すみません……」
寝台から降りると、いつの間にかやって来ていたアスミタに背中を支えられた。
「テト様、こちらに」
用意された水で顔を洗い着替えると、食事の用意ができていた。
「軽めにしてもらったからな。食事を終えたらゆっくりして始まりの花火が打ち上がってから出掛ける予定だ」
「うん、楽しみ」
今日はカイルが即位三年を祝う祭典の中日だった。
七日を予定しているこの祭典はテトも王妃として公務で忙しい日を過ごしたが、今日はカイル様と市街へ視察をしにいく。お忍びでだ。
『花祭』と呼ぶこの祭典は水不足が解消された事により国を花で飾り祝うようになったのだ。
食事を終えてカイル様は、別室で支度をするらしく、それを見送ってから俺はアスミタに支度をしてもらう。
何度も市街へ出た事があるため周囲は俺の顔を知っているし、騒ぎになることはないため軽装になるかと思っていたら違った。
「今日は、随分と女性らしい服だね……」
「はい、カイル様よりの指示です」
カイル様が選んだというのは濃い空のような青を使ったワンピース。
それに合わせた鍔のひろい帽子は白で同じ青のリボンが巻いてあった。
「珍しいね、どうしたんだろ」
「待たせたか?」
「いえ、大丈夫です」
戻ったカイル様も軽装ではあるものの、色は紺を基調としていて俺と対になるようなデザインのもの。
「アスミタ」
「こちらに」
アスミタが持ってきたのは、丸い金のトレイに乗せられた大輪の薄桃色の花だった。
「テト様、お帽子をどうぞ」
アスミタに促されて室内で被らされた防止の左こめかみ辺りにカイル様がその薄桃色の花を刺した。
そして、カイル様の胸ポケットには花と同じ色の手巾、合わせてその手首にも少し太めのリボンが巻かれていた。
「さて、この帽子を被って外出しよう」
そう笑うカイル様に連れられて俺は王城を出たのだった。
カイル様と俺に付き添うのはアスミタと護衛。何かあれば騎士たちも周囲にいる。
「あ、王様、王妃様!こんにちは。お花をどうぞ」
馬車から降りた所を幼い少女に声を掛けられ、少女がたくさん手にしていたなかの一本真っ赤な小さい花を差し出してきた。
「ありがとう」
それを受け取ろうとすると、屈んで!と、頼まれ膝を屈めると少女はアスミタに手伝って貰いながら俺の被る帽子にその花を刺したようだ。
「じゃあね!」
少女は満足したのかそのまま駆けていく。
ふと、気付くと周囲にいる女性は皆俺のような帽子を被っている。
「テト様、私からも宜しいですか?」
アスミタが持ってきたのは黄色い花で、それも帽子に飾ってくれる。
「さあ、見て回るか。テトは大変な事になるかもな」
カイル様のいう通り、行く先行く先で帽子に花を飾られていく。
それが、今年の花祭の余興だと聞かされて俺は最後には帽子が花で埋め尽くされる。
笑いあい、楽しかった花祭は宵闇が迫るまで続いていた。
先に起き出したカイル様のキスを受けて目を覚ますと、外は光に溢れていた。
「おはよう……えっ!今何時?」
あたたかい腕に包まれて深い眠りに落ちていた俺は慌てて寝台脇の水時計を見やる。
「まだいつもの起床と同じくらいの時間だ。支度をしてから食事にしよう」
「はい、すみません……」
寝台から降りると、いつの間にかやって来ていたアスミタに背中を支えられた。
「テト様、こちらに」
用意された水で顔を洗い着替えると、食事の用意ができていた。
「軽めにしてもらったからな。食事を終えたらゆっくりして始まりの花火が打ち上がってから出掛ける予定だ」
「うん、楽しみ」
今日はカイルが即位三年を祝う祭典の中日だった。
七日を予定しているこの祭典はテトも王妃として公務で忙しい日を過ごしたが、今日はカイル様と市街へ視察をしにいく。お忍びでだ。
『花祭』と呼ぶこの祭典は水不足が解消された事により国を花で飾り祝うようになったのだ。
食事を終えてカイル様は、別室で支度をするらしく、それを見送ってから俺はアスミタに支度をしてもらう。
何度も市街へ出た事があるため周囲は俺の顔を知っているし、騒ぎになることはないため軽装になるかと思っていたら違った。
「今日は、随分と女性らしい服だね……」
「はい、カイル様よりの指示です」
カイル様が選んだというのは濃い空のような青を使ったワンピース。
それに合わせた鍔のひろい帽子は白で同じ青のリボンが巻いてあった。
「珍しいね、どうしたんだろ」
「待たせたか?」
「いえ、大丈夫です」
戻ったカイル様も軽装ではあるものの、色は紺を基調としていて俺と対になるようなデザインのもの。
「アスミタ」
「こちらに」
アスミタが持ってきたのは、丸い金のトレイに乗せられた大輪の薄桃色の花だった。
「テト様、お帽子をどうぞ」
アスミタに促されて室内で被らされた防止の左こめかみ辺りにカイル様がその薄桃色の花を刺した。
そして、カイル様の胸ポケットには花と同じ色の手巾、合わせてその手首にも少し太めのリボンが巻かれていた。
「さて、この帽子を被って外出しよう」
そう笑うカイル様に連れられて俺は王城を出たのだった。
カイル様と俺に付き添うのはアスミタと護衛。何かあれば騎士たちも周囲にいる。
「あ、王様、王妃様!こんにちは。お花をどうぞ」
馬車から降りた所を幼い少女に声を掛けられ、少女がたくさん手にしていたなかの一本真っ赤な小さい花を差し出してきた。
「ありがとう」
それを受け取ろうとすると、屈んで!と、頼まれ膝を屈めると少女はアスミタに手伝って貰いながら俺の被る帽子にその花を刺したようだ。
「じゃあね!」
少女は満足したのかそのまま駆けていく。
ふと、気付くと周囲にいる女性は皆俺のような帽子を被っている。
「テト様、私からも宜しいですか?」
アスミタが持ってきたのは黄色い花で、それも帽子に飾ってくれる。
「さあ、見て回るか。テトは大変な事になるかもな」
カイル様のいう通り、行く先行く先で帽子に花を飾られていく。
それが、今年の花祭の余興だと聞かされて俺は最後には帽子が花で埋め尽くされる。
笑いあい、楽しかった花祭は宵闇が迫るまで続いていた。
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