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漆黒の闇夜に大きな白い月が昇る。
窓を開け放ち吹き込んでくる風は熱砂の上を渡って来たのだろうか、まだ微かな熱さを残して肌を撫でる。
「綺麗だな……」
俺は窓辺にもたれて小さく息を吐いた。
しゃらりと手首や足首に下げた細い装飾具が音を立てる。
ふわりと香る嗅ぎ慣れた香りに振り向くと、其処には愛しい伴侶の姿があった。
「カイル、お疲れ様」
窓から離れ数歩の距離を詰めると、優しい強さで胸の中に抱き締められた。
「遅くなったな、眠っていて良かったのに」
「月が綺麗だったから一緒に見られたらいいなって」
カイル様はいつも忙しい。俺も公務に少しは出たりするけれど、水や天気の事以外にはあまり役に立たないのだ。
「そうか、冷えないか?」
「大丈夫だよ、カイルはいつも心配性だね」
「そんなことは……」
「あるよね?」
この優しさは嬉しくてくすぐったいけれど、こんなにも幸せなのだ。
そっと唇を触れ合わせてから窓際に寄ると、後ろから優しく抱き締められた。
すっぽりと収まってしまう体格差。昔は狡いと思っていたがもう慣れた。
抱き締められるのが嬉しいからよしとする。
「ね、綺麗でしょう?」
「そうだな、だが俺にはテトの方が綺麗だと思うぞ?この髪や瞳全てがな」
「もう!」
「この髪も俺が望んだから伸ばしてくれているのだろう?」
俺の背中に流した髪の一房を手に取り、カイル様が口吻ける。
「はい……少しでもカイルに……」
綺麗だと言って欲しい。そう口にする前に俺の唇は塞がれた。
甘い甘い口吻けに、どうしても力が抜けてしまう。
「も、カイル……」
求められれば受け入れてしまう。カイル様には明日も公務が待っているのに。
「どうした?嫌か?」
嫌である筈はない。
俺はゆっくりと頭を振る。
むしろ初めて出逢った頃から年を重ねているのに、カイル様から求められる回数は多くなっているような気さえする。
「嫌ではないけど、月が見ていますから」
こんなにも世界を明るく照らしてくれている月を見上げる。
「そうか、なら窓を閉めてテトの艶かしい姿は俺だけの物にしようか」
ふわりと抱き上げられると、その手でカイル様が窓に垂れ絹を引く。
薄く織られたそれは月の姿を隠して光だけを部屋に招く。
そしてカイル様はそっと寝台に身体を落としてから、枕元の灯りを吹き消したのだった。
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