【完結】【ＢＬ】空と水の交わる場所～anothersidestory

雛鳥 アイヴィス

あぁ、雛鳥みたいだなと思った。
自分の手からサンドイッチを食す姿はやはり、愛らしい。
この愛しい人は、様々な表情を見せてくれる。

慌てて出した婚約の失礼な書簡にさえ、憤慨した様子はなく。
断りを入れては来たが、その代わりに留学をさせて欲しい。
国や私の事を知ってから決めたい。
そう言ってくれた。
拒絶をされなかっただけありがたい。

その伝令が来た瞬間、ルディアスでファレナスまで駆け出しそうになったが、それを止めたのは３人の副団長だった。
今、行ったら台無しになりますから！
そう言われると逸る気持ちを圧し殺して我慢するしかない。
我慢することには慣れている。
それでも馬車では何日もかかる道程には耐えられないと、ファレナスが許可してくれるなら飛竜を飛ばすと連絡をした。
こちらに来るのは留学をするセラフィリーア王子以外に従者は一人だけでいいという。
大概の事は自分でできるという話があり、飛竜を２頭飛ばすことにした。
副団長には最後まで反対されたが、四人でくじ引きで勝ち取った権利だ。
それに、１日でも早くセラフィリーアに逢いたかった。
きっと覚えていないだろう事はわかっていた。
ただ、あのときの出逢いが初恋だった。
年齢差もあるが、自分が国王になって国を落ち着かせてから来てもらおうと決めていた。
それまでに、セラフィリーアに恋人や婚約者はできないと何故思っていたのかはわからない。
おめでたい頭をしていたのだなと今なら思える。
ただ、今になってはあのときの思い込みは間違いではなかった。
本当にセラフィリーア王子が絡めば自分が自分で無くなっていく。

何日も待って漸く再会をしたときに、あの頃より更に美しくなっていた。
息を飲むほど美貌。
人懐こい笑顔に更に愛しさが込み上げてくる。
ルディアスに乗った時に、そっと腰を抱いて悦に入ったのは言えないが。

それより何より、従者に注意しておかなければ。王子だからか、無防備すぎる。
何のために騎士団の宿舎でなく、後宮をわざわざ改装したのか。
白飛竜の事が無ければ…いや、あったからこそこうして一緒に部屋を共有できるのか。
何でも自分の事はできるとはいえ、他人の背中を流すなど…
流石に裸体でとは期待しなかったが…
濡れて貼り付き身体のラインが透けてしまっていたのを気にしないのはどうか。
少し濡れた肌や滴る水滴にため息を吐くしかない。
すべての偶然は、偶然でなく必然だと言っていたのがいたなと思い出しながら
先程従者が淹れたというコーヒーを飲む。
あのとき情けなくも直ぐに湯槽を出られなかったのは自分が悪いのだが…
成人ならわかってくれると思いたい。

さて、
どうやらこのあとマッサージをしてくれるらしい。
少しでも長く一緒にいたい。
この下心を知られたら、セラフィリーアは変わってしまうだろう。
耐えられるだろうか…彼が成人するまで。