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146話
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「まったく……今頃か」
呆れた声でお祖父様は笑った。
「サハルもそうじゃがな、ミゲル……お前もそっちの方面に関してはとんとネンネじゃな。もっと早く来るかと思っていたが、あれか、疫病が流行りだしたから前線に行って何かあるといけないからと漸く重い腰を上げたのじゃろうが……流石に遅いだろう」
お祖父様の手がポンポンと俺の頭を叩いた。
「お祖父様……」
「ダメだと言ったらサハルが悲しむじゃろうし、しかたないのぅ……ミゲル、儂の孫を不幸にしたら許さんからな?」
「肝に銘じます……」
頭を下げたミゲル様は、顔を上げると少し安心したように笑った。
「で、今夜は泊まっていくのか?」
お祖父様はコホンと咳払いをしてから俺の頭を撫でる。
「お祖父様……あの、出立が近いためできればまだ作業が残っていまして……お祖父様が良いなら騎士団へ戻ろうかと」
やらなければならない事はいくらでもあるのだから。
「そうか、なら仕方ないが……出立の時は見送らん。だから二人とも無事に帰ってこい。良いな?」
「はい、お祖父様」
「お約束致します」
うむ。と、お祖父様は頷いて手を上げると、マーサが何かを持って部屋に入ってくる。
「儂からの祝いじゃ、二人で飲むと良かろう」
マーサが差し出してきたのはボトル。
中に何か液体が入っており、ボトルは割れないように厚手の布で包まれていた。
「ミゲル様、お父様から……記念のお酒です。サハルの生まれた年の物をと、セラーから出して来ました」
差し出されたボトルを受け取ると、ミゲル様は破顔した。
「ありがとうございます、折角ですから皆で一口ずつ飲んでから残りをいただければ……」
「そうか、ならマーサグラスを四つ……大きくなくて良いぞ」
「わかりました」
マーサは足早に部屋を出ていくと、丸いトレイに四つ握りこぶしよりも小さなグラスを持ってきた。
「サハルは直ぐに酔うからな、少しにしないとな?」
ミゲル様はボトルを包んでいた布を外し、持っていたナイフでコルクを開けた。
ポンと小さな音がしてコルクが抜けると、ミゲル様がゆっくりと中の液体をグラスに注ぐ。
液体は薄いピンク色をしていた。
「わぁ、綺麗……」
「サハルはこれだけだ」
グラスの底の方に注がれたお酒。
他の三つは半分以上入っているのにだ。
「馬で帰るのだからな、途中で眠られたら困る」
そんなことしたことは無いとミゲル様を見るが、駄目だと頭を振られた。
「まぁ、しょうがなかろうサハル、戻ってから飲ませて貰うがいいぞ」
「はぁい」
不貞腐れた演技をすると、他の三人はクスクスと笑う。つられて俺も笑ってしまいミゲル様からグラスを受け取った。
「二人の新しい門出を祝って、乾杯」
お祖父様の言葉を受けて、俺はその酒を舐めるように口にした。
ふわりと甘く、少しだけ渋みも感じる面白い風味。
三人は一気にグラスを干してテーブルに置く。それを見て慌てて俺も飲み干した。
「ありがとうございます。これからずっとサハルと手を取り歩んで行きます……」
「頼んだぞ?」
俺はミゲル様に抱き寄せられる。
「サハル、幸せにね?お父様が寂しがるからたまには来て頂戴?私も神殿を辞めてしまったから時間はあるのよ?」
マーサがそう言って笑う。
家族って、こんなにも幸せなのだなと俺は泣きそうになった。
聖女見習いになる時に半ば売られるように親から離された俺。
あれから一度も会うことが無かった両親はどうしているのだろうかとも思わない……。
「さぁサハル帰ろうか」
「はい!お祖父様、マーサまた来ます」
最後にお祖父様とマーサそれぞれに抱き締められてから侯爵家を後にした。
呆れた声でお祖父様は笑った。
「サハルもそうじゃがな、ミゲル……お前もそっちの方面に関してはとんとネンネじゃな。もっと早く来るかと思っていたが、あれか、疫病が流行りだしたから前線に行って何かあるといけないからと漸く重い腰を上げたのじゃろうが……流石に遅いだろう」
お祖父様の手がポンポンと俺の頭を叩いた。
「お祖父様……」
「ダメだと言ったらサハルが悲しむじゃろうし、しかたないのぅ……ミゲル、儂の孫を不幸にしたら許さんからな?」
「肝に銘じます……」
頭を下げたミゲル様は、顔を上げると少し安心したように笑った。
「で、今夜は泊まっていくのか?」
お祖父様はコホンと咳払いをしてから俺の頭を撫でる。
「お祖父様……あの、出立が近いためできればまだ作業が残っていまして……お祖父様が良いなら騎士団へ戻ろうかと」
やらなければならない事はいくらでもあるのだから。
「そうか、なら仕方ないが……出立の時は見送らん。だから二人とも無事に帰ってこい。良いな?」
「はい、お祖父様」
「お約束致します」
うむ。と、お祖父様は頷いて手を上げると、マーサが何かを持って部屋に入ってくる。
「儂からの祝いじゃ、二人で飲むと良かろう」
マーサが差し出してきたのはボトル。
中に何か液体が入っており、ボトルは割れないように厚手の布で包まれていた。
「ミゲル様、お父様から……記念のお酒です。サハルの生まれた年の物をと、セラーから出して来ました」
差し出されたボトルを受け取ると、ミゲル様は破顔した。
「ありがとうございます、折角ですから皆で一口ずつ飲んでから残りをいただければ……」
「そうか、ならマーサグラスを四つ……大きくなくて良いぞ」
「わかりました」
マーサは足早に部屋を出ていくと、丸いトレイに四つ握りこぶしよりも小さなグラスを持ってきた。
「サハルは直ぐに酔うからな、少しにしないとな?」
ミゲル様はボトルを包んでいた布を外し、持っていたナイフでコルクを開けた。
ポンと小さな音がしてコルクが抜けると、ミゲル様がゆっくりと中の液体をグラスに注ぐ。
液体は薄いピンク色をしていた。
「わぁ、綺麗……」
「サハルはこれだけだ」
グラスの底の方に注がれたお酒。
他の三つは半分以上入っているのにだ。
「馬で帰るのだからな、途中で眠られたら困る」
そんなことしたことは無いとミゲル様を見るが、駄目だと頭を振られた。
「まぁ、しょうがなかろうサハル、戻ってから飲ませて貰うがいいぞ」
「はぁい」
不貞腐れた演技をすると、他の三人はクスクスと笑う。つられて俺も笑ってしまいミゲル様からグラスを受け取った。
「二人の新しい門出を祝って、乾杯」
お祖父様の言葉を受けて、俺はその酒を舐めるように口にした。
ふわりと甘く、少しだけ渋みも感じる面白い風味。
三人は一気にグラスを干してテーブルに置く。それを見て慌てて俺も飲み干した。
「ありがとうございます。これからずっとサハルと手を取り歩んで行きます……」
「頼んだぞ?」
俺はミゲル様に抱き寄せられる。
「サハル、幸せにね?お父様が寂しがるからたまには来て頂戴?私も神殿を辞めてしまったから時間はあるのよ?」
マーサがそう言って笑う。
家族って、こんなにも幸せなのだなと俺は泣きそうになった。
聖女見習いになる時に半ば売られるように親から離された俺。
あれから一度も会うことが無かった両親はどうしているのだろうかとも思わない……。
「さぁサハル帰ろうか」
「はい!お祖父様、マーサまた来ます」
最後にお祖父様とマーサそれぞれに抱き締められてから侯爵家を後にした。
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