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131話

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「少しでも会議の疲れが残りませんように……」
俺は会議室にお茶を置いていく。
本来ならば全員が座ってからお茶を出すのが当然だと言う事はわかっている。
「これでいいか」
部屋の端に言われたように大きめなポットにお茶を用意して置いておく。
その脇にはミゲル様が貰っただろう焼き菓子を摘めるように一人分ずつに小さく紙で包んだものをバスケットに入れて置いておく。
自由にお取りください。
テーブルをもう一度綺麗に拭いてから俺は会議室を後にした。
「さて、付与作業でもしちゃうかなぁ……」
石は沢山ある。これから革紐や布袋は届く予定だし……昼前まで付与をしてから、久し振りに昼食の厨房手伝いでもしようかと思いながら廊下を歩く。
すりりと、向こうから見た顔……まさかの大神官が歩いてきた。
お付きの神官は二人。
俺は、廊下の隅に寄り道をあける。
そして、頭を下げた。
さっさと通り過ぎろ。
面倒くさいと思いながら静かに通り過ぎるのを待つが、通り過ぎた気配はなくそっと目を開くと神官の靴の爪先が見えた。
止まっている?俺の前で?
だが、あちらの方が身分は上だ。顔を上げることはできず俺は静かに待っていたが、動く気配がない。
声でも掛けてくれれば顔を上げもできるのに。正直言ってこの体制は疲れるのだ。
嫌がらせか?と、思うくらいその場にいたが遠くから声がかかった。
「騎士が何かいたしましたか?」
その良く通る声はミゲル様。
「会議の時間にはまだありますが、準備はできておりますよ大神官様?」
ゆっくりだが、ミゲル様の声が近づいてくる。
「騎士団長殿、騎士の躾がなっておりませんな……なぜ床に座り挨拶をされぬ?」
俺はしまった!と、唇を噛んだ。
いや、床に座る挨拶は聖女見習い以下の挨拶だ。
「あぁ、この子は騎士ですから。見習いではございませんので」
だから立礼なのですよと、ミゲル様は笑い行きましょうかと大神官を促した。
流石に隊服を着ていなかった俺にも非があるのだが。
「行きなさい、まだ仕事が終わっていないだろう」
あくまでも名前を呼ばずに俺を行かせようとしてくれるミゲル様に頭を下げた。
すると、大神官はふんと鼻を鳴らすと床を踏み鳴らし会議室へと向かっていく。
「ありがとうございますミゲル様」
遠く離れていったミゲル様にもう一度頭を下げてから、俺は厨房へ向かう。
付与はその後。
その日の昼食には沢山のクッキーが焼かれ出されたのは、言うまでもなく俺がその怒りをクッキーにぶつけただけなのだが。
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