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106話

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嚥下した酒が喉を焼く。
カッとした感覚が直ぐに消えて、喉の奥から花に抜ける甘い香りは花の香り。
そして、舌に残る甘味

「不思議なお酒ですね」
「そうだな……飲みすぎるなよ?」
「はい」

頷いたが、喉から滑り落ちた酒が胃のなかで熱を帯びる気がした。
あまり酒を口にした記憶はない。
前世も現世も。
口を付ける程度しか飲んでいない。
聖女の力が上手く発動しないからだ。
何もない時は構わないが、有事の際に能力が使えないわけにはいかないのだ。

「ふふ。何だか身体がぽかぽかします」

体温が上がっているのだろうか、ふわふわとした意識。
上手く思考が整わない。
でも、美味しいと感じるためもっと欲しくなって俺はグラスに口を付ける。

「そうか、サハル……大丈夫か?」
「らぃじょうぶれす?」
「サハル!?」

ミゲル様の声色が変わった気がした。

「マジか、舐めたぐらいなはずだが……」

グラスの半分も入れてないがと、ミゲル様が呟くのが聞こえた気がした。
確かにグラスの底からコインの縦1枚分くらいは残っているから、それほど多くは飲んでいない。

「ん~……ミゲルさまぁ……」

身体がふらふらとして視界が揺れるような気がして俺は目を瞑ると、無意識にミゲル様のいる方に身体が傾ぐ。
ほんのりと暖かいミゲル様の体温が気持ち良くてもっととくっつく。
抱き付いて腕を回す。

「あったからぁ~……」

自分が何を喋っているのかも良くわからない。
呂律が回っていない自分の声がなんとなく聞こえてきて、おかしいなと首をかしげた。

「サハル、横になれ」
「やら、ミゲルさまもいっしょ」

離れたくない。
だって、恋人になれたのだから2人きりの時くらい……ミゲル様を一人占めしたいのだ。
普段なら言わない我儘が口の端に上る。

「小悪魔め」

何やら聞き慣れない単語が聞こえて来た気がして、俺は目を開けてミゲル様を見上げる。

「あくま……いません」

この世界には神も悪魔も居ない。
いたらどうして平和にならないのか。
神殿で私腹を肥やす者は罰せられないのか、騎士たちが魔獣と戦い命を落とさねばならないのか。
考え出したらきりがない。

「みんな、しあわせになる……」

そこで俺の記憶は途切れた。
脳が考えることを止めて眠りに落ちる。
眠りに落ちてしまった俺をミゲル様が抱き上げて、ミゲル様の寝台に寝かせてくれミゲル様は執務室のソファーで眠ったことを俺は目覚めてから知ることになったのだった。

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