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96話 ミゲル視点

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目を覚ました瞬間、身動きができなくなってしまった。
どうしてこうなった。
騎士団の寮の部屋ではなく、一瞬見慣れない部屋に戸惑うよりもはやく腕の中に抱き締めているあたたかい存在に気付き、それがサハルだと認識した瞬間に身体の熱が上昇した気がした。

「…………っ!!」

声にならない叫びを噛み殺し、目を瞑り頭の中で10を数えて目を開けたが、腕の中の存在は消えてはいなかった。
起きる気配の無いサハル。
穏やかな寝息をたてて眠っていた。

まだ上手く活動を始めない脳を一気にフル回転させて、昨夜の事を思い出す。
軽く散歩をしたあとにマッサージをと言われて、部屋でマッサージを受けてうとうとしたまでは何となく記憶にあるのだが、その先が全く記憶に無いのだ。
まさか……と、思いながら相手を見るも、きっちりと服を着こんだ姿に下衆な考えをしていたことに頭が下がる。
何も無かったのは一目瞭然。
いくら相手に好意があっても、同意も無しにそんなことは出来ない。

それに、サハルが持つ聖女の能力は、乙女でないと発動しないのだと聞く。
もちろん、サハルは男子だと言うことを俺は知っているのだけれど……。
男子であるのに乙女でと言うのは可笑しいし、そもそもサハルはどうなのだろうか。

なんて考えに至りながら息を吐き出すと、ぱちりとサハルの目が開いた。

「ミゲル様、おはようございます」

優しげな笑みと、神々しいまでの美しさ。
それに見惚れてしまい、一瞬返事が止まった。

「おはよう、まだ早いもう少し寝た方がいいだろう」
「いえ、ぐっすりと眠れました……ミゲル様は……あ、すみません腕枕……腕は痺れていませんか?」

頭を持ち上げて、下にしていた腕を撫でる。
色々と無自覚なのだろう。

「俺は大丈夫だ、少し訓練をしてくる……」

それしか言うことができずに俺は逃げるように部屋を出た。
師匠の自宅だ、かつて知ったるで庭に出ると、置かれていた木刀での素振りをして、押し寄せてくる煩悩とひたすら戦うのであった。
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