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81話 ミゲル視点

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居酒屋に行きたいと言い出したサハル。
冗談じゃない!
何があるかわからないのにそんな危険な場所にいかせられるか。
そう思ったが、サハルの可愛らしいお願いに無下な態度もできずに一緒に行く事で了承した。
聖女だったサハルはきっと居酒屋などに行ったことは無いだろう。
騎士団行きつけならば知った顔ばかりだから、少しは安心だろうと手を繋いで店に向かう。
酒も料理も美味い騎士団1番人気の店ならば問題ないだろうと扉を開くと、其所には見知った顔ばかり。
いい匂いも厨房からだろうしてくるのを感じながら、空いている席を視線だけで探すと、それに気付いたひとりが立ち上がりふたり分の席を開けてくれた。

それに感謝しながら、全員に一杯ずつの酒とつまみを奢ると宣言し、サハルを促して座った。

キョロキョロと物珍しそうに店の中を見回すサハルはやはり来たことが無いのだろう、見た目は実年齢よりも幼いのだ。
わかっていても頬が緩んでしまう。
この店で美味い料理を教えながら食事を選ばせて、それよりも先に酒を持ってきて貰う。
同じテーブルについていた騎士から、先にどうぞとサラダを貰った。
酒より先に何かを腹に入れた方がとサハルを見ると、別の騎士からは腸詰めを貰っていた。
どうやら皆サハルが可愛いらしい。
そりゃそうだ。
良く気が利くし、働き者。
性格も朗らかで見目もうるわしい。
本人は気にしていなかったが、昔遠目に見た大聖女は神々しい光を纏っていたのを思い出した。
それから数年、こうして近くで見ても男性的な要素はあまり見えない。
成人していると聞くが、髭も浮き上がっているのを見たことがないのだ。
流石に俺も毎日剃刀は当てるが…

「美味しい」

嬉しそうなサハルに、暫くすると自分達が頼んだ酒や食事が運ばれてきた。
コトリコトリと置かれた小鉢は、サハルへの差し入れだろう。
食べていいぞと促すと、サハルは嬉しそうに食事を始めた。
慰労会のため、サハルが皆へ酒を注ぎたいと言い始めた。
食事も終えて顔色はほんのり赤くなっているが、足取りもしっかりとしていたため、店員にピッチャーとグラスを貰うと行ってきますと、まずは俺のグラスを満たして、同じテーブルを周り次から次へ。
蝶が花を渡り歩くように端からまわる。

「団長、可愛いですね…馴れ初めは?」
「色々とあってな?サハルの出自に関する事だから、本人が言わなければ言えないが」

満たされた酒を口にする。
此処にいる誰よりも…自分よりも位は高い。
ただ、本人は何も言わないため、俺からは何も言えないのだ。
最後まで酒を配り終わると戻ってきたサハルがふらりとした。
あわてて抱き止めると、へらりと笑みを溢して身体を預けてくる。
隣に座っていた騎士が立ち上がり奥にいた女将に何か告げると、赤いタグのついた鍵を持ってくる。

「団長、ふたり部屋が空いていましたから…裏手の部屋で泊まれます。
サハルも疲れているでしょうから早く寝かせてやってください」

そう言われて鍵を受けとる。
部屋の番号を確認してからサハルを横抱きに抱き上げると俺はその部屋に向かった。
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