【ＢＬ】かつて大聖女様と呼ばれていた俺は現在男ですが何か。

70話

「サハルちゃん、今夜から私の天幕で一緒に寝ない？」

天幕の中に入ると、サディ様がそう言ってくる。

「ほら、私弟騎士もいないし…」
「え、いらっしゃらないのですか？」

自分でも食い付くところはそこかよと、思わなくも無かったが。

「いないわよ、ほら、私はこんなでしょう？」

ふふっと笑うサディ様は、普通に素敵な人だと思う。
ちょっとしゃべり方に慣れないけれど、俺だってサシャの時は同じように女性言葉で喋っていたのだ。
足を閉じて指先まで神経を配る。
それが凄く辛かったこともあったけれど、長い間で普通になってしまっていた。

「サディ様は素敵だと思います。自分を偽らないじゃないですか。きっと良い方が見つかりますよ！」

心からの言葉をサディ様は嬉しそうに受け取ってくれる。

「１人じゃ何かあるといけないでしょう？作業があるから、私の天幕でするって周りに言っていらっしゃい。
まぁ、ミゲル団長にも貴方を任されているから…ね？」
「わかり、ました。夕方の配膳と片付けが終わったら、荷物を持ってこちらに来ます。
サディ様、色々とありがとうございます」

本当に迷惑ばかり掛けてしまうのが申し訳ないと思いつつ、ミゲル様を始めに色々な方の優しさを戴いて何とかやれているのだ。
少しでも返したい。
役に立ちたい。

サシャとしてではなく、サハルとして。
何が、できるだろうか。
そう考えながらサディ様と一緒に天幕でペンダント作りを進めていった。

井戸水のお陰なのか、魔力を込めても疲れが見えない。
おかしいなとは感じていたが、あっという間に付与が終わってしまう。

「サディ様の装飾品に魔力を込めましょうか？怪我とかしないとは思うのですが…」

そう話しかけて慌てて口をつぐむ。
うとうととサディ様が眠っていた。