【ＢＬ】かつて大聖女様と呼ばれていた俺は現在男ですが何か。

26話☆

「怪我をした人間から後退だ、残り少しの魔獣は押し返せ！」
ミゲル様の声が……此処まで届くはずの無い声が聞こえた。
あと少し。
「副騎士団長様、怪我人を集めてください、少しなら治癒できます」
その為に来たのだから。
お願いしますと見上げると、ラーシュ様は手を上げて指示を出す。
いくつかのまとまりになったグループで、一番軽傷のグループにはまとめて治癒を施す。
前線で戦いを終わりにしてもらうためだ。
続いて残りを重傷から軽傷に引き上げる。
失った命、欠損した部位は、流石の俺にもどうにもできない。
折れた骨をくっつけて、痛みを緩和する。
それだけでも違うだろう。
後は重体の騎士達だ。
俺は額に浮かぶ汗を拭った。
「大丈夫だからな……命だけは助ける……必ず」
ここにいる騎士だけでも。
「……っ……」
重体だった騎士達は苦悶の表情を浮かべた。
このまま、逝かせてくれ。
そんな表情に見てとれた騎士もいる。
知るか！
命あっての物種だ。
俺はやれることをやるんだよ。
つい戦場では過去と今がオーバーラップする。
「ガタガタ言うなっつーの、痛いのは生きてる証拠なんだよっ！」
口から出るのは汚い言葉だが、騎士達はハッとして口をつぐんだ。
指に填めた指輪が弾ける。
力の使いすぎだ。
だけど、此処で辞める訳にはいかない。
まだ、残った患者がいる。
目眩がする。
最後のひとりを身終わるまで歯をくいしばってどうにか耐えて、そして倒れた。
どうして神殿にいる聖女は１人も来ない。
きっと、今頃あちらに来ている聖女見習い達も大変な思いをしているだろう。
今度、本気で抗議してやろう。
役立たず！
そう心の中で罵る。
「サハル殿！」
ミゲル様の声がする。
大丈夫だったのかな。
そこでふつりと記憶が途切れた。