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4話

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えーっと、とりあえず普通の格好で出ればいいか。
部屋を出てしまったからもう煩い女官はいないし、今日の外出のために用意していた町娘の服。
部屋で着替えれば良かったのだが、部屋に置いておくと女官に見つかり煩いことになるからとあえてこっそりとばれないように隠しておいた場所は滅多に誰も来ない農機具小屋の片隅。
目立たないように落ち着いたモスグリーンのワンピースと、ショートブーツ。
目立つ髪はヴェールのようにスカーフで隠す。
それで少しは違うだろう。
あー……勢いで切っちゃったけど、縛れるくらいは残しておけば良かったかも。
少し後悔しながらもパパっと聖女の服を脱ぎ捨ててワンピースに着替える。
いつもは手伝ってもらう着替えも、一人でできるもんね!そう思ったのも束の間。
「サシャ様!」
静かだが硬い声がかかる。
げっ!
俺は油の切れたブリキの玩具のように、ギギッと首を動かしてそっと後ろを向いた。
「なんて事をなさったのですか」
はらはらと、肩に残っていた髪が床に散らばったのを見ながら女性は静かに怒っている。
「だってマーサ……」
「だってではありませんよ、これだけにするのにどのくらいの手間がかかっているのかおわかりですか?サシャ様、そこにお座りなさい」
指をさされたのは、小屋の角にある木の丸椅子。
ガミガミと小言を口にするのはこの神殿の女官長であるマーサで、俺が男だと言うのを知っている数少ない人間だ。
昔からの条件反射で椅子ではなく床に正座をすると、マーサの説教が降ってくる。
俺に反撃の余地は無くて、そのまま静かにそれを聞いていた。
「だから、俺は聖女を辞める」
暫くのマーサの小言が続き、漸く途切れた所で俺はそれだけ言葉を絞り出した。
「まだそんな……」
「お飾りの聖女なんていらないだろ?この身体を王子に差し出せなんて言う神殿なんかに居てたまるか」
もう、言葉など選んでいられない。マーサに伝わるように貴族や神殿の回りくどい言い回しを避けて直接的な言葉を紡いだ。
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