【ＢＬ】かつて大聖女様と呼ばれていた俺は現在男ですが何か。

３話

俺は過去の……前世の……記憶を持っている。
顕現したのは６歳の時。
誕生日を迎えた時から少しずつ夢と現の狭間で記憶を取り戻していった。
俺は今から400年ほど前に同じ国で聖女と呼ばれていた。
強い癒しと浄化の力を持ち、戦の前線で治療にあたる事もしばしばあり、戦場の乙女とも呼ばれていた。
過去も現在も聖女は神殿に囲われ、戦場へ向かわないのが常で、当時は自分だけが異色だった。
戦時には王家から神殿へ聖女達の出陣の依頼があったが、神殿長はなかなか良い顔をしなかった。王宮が報酬を重ねに重ねて漸く聖女が派遣されたが、俺はその中に混ざることを断ることはなかった。
戦場の乙女が参戦しない戦は負傷者人数が跳ね上がるらしい。それだけ他の聖女は役に立たない。
だから、一人でも亡くなる人数を減らしたくて俺は戦場を駆け回る。
命が尽きるまで癒しを求める人へと力を分け与えていた自分が最後どうなったのかは記憶にない。
前世の記憶を思い出した瞬間、俺は男なのに癒しと浄化の力を得てしまった。
なぜ、癒しと浄化の力を持つ者が聖女と呼ばれるのかと言うと、その力を併せ持つ人間は女性だけの筈なのだ。
1300年ほど続く国の歴史の中で２つの力を持つ男性はひとりも存在したことがなく、俺が現世でこの力に顕現したことで、王家と神殿は震撼したらしい。
そして出した結果は俺を女性として神殿に仕えさせることだった。
別に、男だって公表すればいいだろうに……と思ったけれど、首を跳ねられるのが嫌だから幼かった俺は頷くしかなかったんだよ。
国の根幹を揺るがす大参事だという単語は、幼い頭では何となく理解ができなかったが今ならわかる。
確かにそうだ……ただ、俺は幼い間は本当に一部の人間には珍獣扱いされた。
それ以外の奴らは俺が男だと言うのは知らないだけなのだけれど。