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第2章 退魔
30話
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「鴇…今夜は俺の番なんだけど」
蜜柑の少し低い声に俺は目を開いた。
昔から眠りは浅くて、他人の動きがわかってしまう。
もう、店や路地の提灯も消えて静かになっているなかで、隣に眠っていた蜜柑がもぞりと動く。
「ん、一緒に寝る?」
少しだけ肌寒い深夜に他人のぬくもりは幸せで。
ぺらりと上掛けを捲ると、びっくりしたように蜜柑は目を見開いてからもぞもぞと布団の中を移動してきた。
「ん、あったかい…」
ぬくぬくと布団の中で暖かくなっていた蜜柑の体温が心地いい。
「ひゃっ!」
するりと浴衣の中に入ってきた手に声が出た。
冷たい訳ではないが、意思を持って動く指は艶かしく敏感な部分を撫でていく。
それに身を強張らせると蜜柑の指先が動きを止めた。
「鴇…仲間内でなら仕方ないって思ってた…でも、白銀…あいつは仲間じゃない…」
「蜜柑?」
「誰かに取られるなんて嫌だ…俺のものにしたい…」
普段あまり喋らない蜜柑が少し低い声で喋るのが珍しい。
そんなところは師匠の鶸と似ているななんて思ってしまう。
「蜜柑…どうしたんだよ…」
兄弟子だという矜持があるのだろう、蜜柑に酷いことをされたことはない。
まぁ、他の皆にもされたことはないけれども。
「急がせないし、強要しないと決めたけれど、それは俺たちの中の誰かを選んでくれることが前提だった、でもそうじゃない場合も出てくるんだろ…それだけは嫌だ…」
蜜柑の言葉に、あぁ、そうかと思い至る。
俺はこの世界が乙女ゲームだと知っているけれど、知らないのか普通なんだよな…。
「わかってる…皆にも言われたから。
まだ俺が誰かを選べないのがいけないんだよな」
押し倒されるような形で蜜柑を見上げているが、怖さはなくて、ただ淡々と俺は喋ることができる。
「ごめん…蜜柑」
そっと手を伸ばして蜜柑を抱き締めてやる。
ポンポンと背中を叩くと蜜柑が脱力したのがわかった。
「蜜柑が嫌いな訳じゃない。でも1番が決められないんだ…皆それぞれいいところがあるからさ?」
「そう、だな…」
「でも、何で俺なんかを好きになってくれたんだ?蓮も雀も女の子だし、優しくて可愛いだろ?」
「そうだけど…好きに理由はないだろ?」
「蓮にも言われたよ…ちょっと本気で誰を選ぶか考えるよ…できるだけ早く答えを出すから…さ」
俺が息を吐き出すと、蜜柑はごろりと隣に横になった。
「今夜だけは抱き締めて寝たい…」
蜜柑の切ない声に頷いた。
浴衣の下の厚い筋肉はしっかりと鍛えている証。
ちゃらちゃらとした付け焼き刃の俺とは違う。
蜜柑の腕の中で誰が好きなのだろうかと眠れぬ一夜を明かしたのだった。
蜜柑の少し低い声に俺は目を開いた。
昔から眠りは浅くて、他人の動きがわかってしまう。
もう、店や路地の提灯も消えて静かになっているなかで、隣に眠っていた蜜柑がもぞりと動く。
「ん、一緒に寝る?」
少しだけ肌寒い深夜に他人のぬくもりは幸せで。
ぺらりと上掛けを捲ると、びっくりしたように蜜柑は目を見開いてからもぞもぞと布団の中を移動してきた。
「ん、あったかい…」
ぬくぬくと布団の中で暖かくなっていた蜜柑の体温が心地いい。
「ひゃっ!」
するりと浴衣の中に入ってきた手に声が出た。
冷たい訳ではないが、意思を持って動く指は艶かしく敏感な部分を撫でていく。
それに身を強張らせると蜜柑の指先が動きを止めた。
「鴇…仲間内でなら仕方ないって思ってた…でも、白銀…あいつは仲間じゃない…」
「蜜柑?」
「誰かに取られるなんて嫌だ…俺のものにしたい…」
普段あまり喋らない蜜柑が少し低い声で喋るのが珍しい。
そんなところは師匠の鶸と似ているななんて思ってしまう。
「蜜柑…どうしたんだよ…」
兄弟子だという矜持があるのだろう、蜜柑に酷いことをされたことはない。
まぁ、他の皆にもされたことはないけれども。
「急がせないし、強要しないと決めたけれど、それは俺たちの中の誰かを選んでくれることが前提だった、でもそうじゃない場合も出てくるんだろ…それだけは嫌だ…」
蜜柑の言葉に、あぁ、そうかと思い至る。
俺はこの世界が乙女ゲームだと知っているけれど、知らないのか普通なんだよな…。
「わかってる…皆にも言われたから。
まだ俺が誰かを選べないのがいけないんだよな」
押し倒されるような形で蜜柑を見上げているが、怖さはなくて、ただ淡々と俺は喋ることができる。
「ごめん…蜜柑」
そっと手を伸ばして蜜柑を抱き締めてやる。
ポンポンと背中を叩くと蜜柑が脱力したのがわかった。
「蜜柑が嫌いな訳じゃない。でも1番が決められないんだ…皆それぞれいいところがあるからさ?」
「そう、だな…」
「でも、何で俺なんかを好きになってくれたんだ?蓮も雀も女の子だし、優しくて可愛いだろ?」
「そうだけど…好きに理由はないだろ?」
「蓮にも言われたよ…ちょっと本気で誰を選ぶか考えるよ…できるだけ早く答えを出すから…さ」
俺が息を吐き出すと、蜜柑はごろりと隣に横になった。
「今夜だけは抱き締めて寝たい…」
蜜柑の切ない声に頷いた。
浴衣の下の厚い筋肉はしっかりと鍛えている証。
ちゃらちゃらとした付け焼き刃の俺とは違う。
蜜柑の腕の中で誰が好きなのだろうかと眠れぬ一夜を明かしたのだった。
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