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第1章 転生

14話

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目を醒ますと翠は先に起きたようで、俺にはしっかりと上掛けが掛けられていた。

「やっべ、今日早く起きなきゃならない日だったんだ!」

市が立つ日で鶯と一緒に早めに行く約束をしていた。
起こしてくれればいいのに!なんて言いながらも翠の布団を畳み仕舞うと、自分の部屋に戻る。
顔を洗ってから収穫の手伝いをと動ける服装になりそのまま裏木戸を出た。

「鶯、悪いもう終わっちゃったか?」

畑に駆け付けると、まだ鶯はパチパチと鋏で野菜を収穫していた。

「大丈夫、でももう少しで終わり。いっぱい採れたから売れたらいい…鴇と行くと売れ行きがいいから嬉しい」

籠に沢山の野菜を見せてくれて、鶯は笑みを浮かべた。

「翠に買い物を頼まれているから、終わったら付き合ってくれるか?」

「うん」

「じゃあ、いこう?翠が朝飯作って待っててくれるだろうから」

市に行く日の朝は皆と一緒に食事はとらず、翠がお握りを握ってくれる。
歩きながらでも、途中休憩しても、着いてからでも好きなときに食べられるからだ。
中身はいつも違うので楽しみのだけれど。
鶯と屋敷に戻ると、上がり口に竹の皮の包みが置いてあった。

「翠、ありがとう。行ってくる!」

土間の方に声を掛けてから俺は屋敷を出る。
鶯と一緒に野菜売りだ。
鶯と並んで歩きながら市を目指す。
晴れた空は気持ちが良かった。

「この辺りでいいか」

ちらほらと並んだ売り子達の場所を見ながら俺は蓙を敷く。
野菜は笊に乗せて一笊いくらで売る。
少し形の悪いの等はおまけとして横に退かしながら鶯と手分けして準備を終えると一息吐こうと翠のお握りを取り出した。
1つを鶯に渡して竹の皮を開くと、3つのお握り。
添えられた沢庵。
竹筒のお茶を分けて食事を始める。
少し強めの塩結びが美味しかった。
2個目は焼いた塩鮭。
鮭の塩が強いからか、米にはほんのりと塩味。

「梅干し美味い」

3個目を口にすると、中身は肉厚の梅。
鶯と梅の実をもいだ梅干しだろう。
鶯は知らないうちに木の剪定などもしてくれて、果実などが沢山採れるようにしてくれる。

「鶯の手は緑の手だよなぁ…」

ぽつりと呟くと、鶯がきょとんとこちらを見ていた。

「植物に愛される手だってこと。それだけ鶯が植物に手を掛けているんだろうけどね?」

「ん。鴇…僕…鴇にはひもじい思いはさせないから」

鶯の手が俺の手に触れる。
冷たい水に触れてかさついた働き者の手だ。
ふと、俺は懐から小さな貝の貝殻を取り出すと、そっとその中身の軟膏を指先ですくうと鶯の手に塗ってやる。
匂いのあまりない切り傷に良く効く軟膏。

「痛くないか?」

「ないけど…」

爪の横から指の腹、掌まで全てに塗り込んでやる。

「よし、少し乾くまでそのままな?それと、この軟膏、切り傷とかにいいから鶯にやるよ。器…鶯の趣味に合わなきゃ入れ換えてもいいからさ?
冬のあかぎれとかにも良く効くから」

「ありがとう…でも、何も返せない」

「俺が貰いすぎなんだって、何なら、夏に西瓜食わせて?川で冷やした冷たいやつ!」

「もちろん」

俺は、やった!と、握り拳を作る。
暫くすると、ちらほらと買い物客が出始めて、鶯が作った野菜はどんどん売れていくのだった。
買いに来てくれるのは顔馴染みの客が多い。
美味しかったからまた来たと。
2笊買ってくれると少しのおまけ。
最後の笊が売れたのは市を開いてから一刻ほどしてだった。

「売れた~鶯お疲れ様」

「鴇がいると、売れるの早い…しかも女性客が多いから…売り上げが多い」

笊も、一緒に買ってくれる人が多いからありがたい。
笊は鶸と蜜柑の手作りだ。
俺も手伝うけれど、あの二人の器用さには勝てない。

「良かった。片付けてから俺たちも見て回ろうか。味噌と七味頼まれているし」

「そうだな」

俺たちは蓙を片付けてから背負子を背中にして周囲の店を歩いて回った。
まずは味噌と七味。お茶の葉。
これはいつものだから、買うのは難しくない。
それ以外にも皆に何か買っていこうと自分の財布を出す。
蓮には飴玉。雀には金平糖。
女の子達のは簡単に決まったが、他が決まらない。
それでも鶯と一緒だから楽しく選び、全員には焼き菓子を1つずつ。
自分たちは歩きながら食べるのに別に買って帰ろうと決まった。
個人的な買い物はまた今度かなぁなんて思いながら俺は鶯と歩いて帰る。
その途中、雷の鳴る土砂降りに遭遇したのだった。
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