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第1章 転生
13話
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日中普通に過ごしながら夜を待つ。
少しだけ早い湯を貰い、浴衣に着替えてから窓辺に座る。
部屋から見る月は大きく丸かった。
あれ、こっちに来たときは向こうも満月だったななんて考えながらぼんやりとしていると、咳払いが聞こえて声がかかる。
「鴇、いらっしゃいますか?」
「あぁ、どうぞ」
俺は立ち上がると襖を開けた。
翠も珍しく湯上がりなのか、浴衣姿で寛いだ格好だ。
いつ入ったんだろう。
「行こうか…」
約束だしと部屋を出ようとして、そっと手を繋がれた。
緊張しているのか、指先が冷たい。
「珍しい…な、翠」
「僕も、鴇と…その…恋人に…」
口ごもる翠が、可愛く見えてそのままそっと引き寄せた。
「ありがとな。気持ちは貰っておくよ?まだ考えさせて欲しいんだ…皆が好きだからさ」
「えぇ、わかっています…嫌われていないだけで嬉しいので。
では、僕の部屋に行きましょうか」
鴇が促すと、翠はゆっくり部屋に向かう。
するりと腰に回された手に頑張っているなあと笑いつつそのまま翠の部屋に入った。
几帳面な翠のように余計なものはなく片付けられた部屋。
窓からは月と庭の池が見えた。
ぱしゃりと池の鯉が跳ねる。
窓の下には小さな円卓に茶器のセットが置いてあった。
「どうぞ、こちらに」
座布団を薦められると俺はそこに座る。
翠がお茶をいれてくれた。
「いただきます」
「どうぞ、寒くはありませんか?」
「少し?」
風呂で温まった身体が冷えてきたのだろう。
聞かれると俺はふるりと身体を震わせる。
「なら、こちらをどうぞ」
肩から掛けられた上掛けは、薄い毛布のようなもの。
軟らかくて温かい。
「翠は寒くない?ほら」
持っていた湯呑みを円卓に置くと、掛けて貰った端を持ち上げて一緒に入らないかと誘う。
翠は一瞬動きを止めてから、そっと中に入ってきた。
寄り添うように座り、1枚の毛布にくるまると互いの体温が感じられて暖かく俺は小さな欠伸を漏らした。
「他人の体温って気持ちいいよな…」
同意を求めようと見上げた翠の唇が軽く額に触れた。
「鴇…好きです…少しだけこうして触れさせていてください」
「うん。口吻けまでなら…ね」
気持ちいいことは好きなのだから。
触れるのも触れられるのも好きだけれど、誰かを選ぶことができない。
一人だけ特別にするなら、他は切らなければならないのだから…優柔不断なのはわかっているけれど。
皆、イケメンなんだよね…攻略対象だけあって。
「鴇、何を考えているのですか?」
頬を包まれて啄むような口吻けが止まり、少しだけ責めるような音が言葉に混じる。
「ごめん。ちゃんとみんなのことを考えなきゃなって思ってさ?」
「そうですね、そんなまっすぐな鴇だからこそ好きになりました…皆も急ぎはしないと思いますからゆっくり選んでください」
「んっ…ふぅ…」
お月見に来た筈なのにゆっくりと月を見る時間は無くて、翠の気がすむまで付き合ってから、翠の腕の中で眠ったのだった。
少しだけ早い湯を貰い、浴衣に着替えてから窓辺に座る。
部屋から見る月は大きく丸かった。
あれ、こっちに来たときは向こうも満月だったななんて考えながらぼんやりとしていると、咳払いが聞こえて声がかかる。
「鴇、いらっしゃいますか?」
「あぁ、どうぞ」
俺は立ち上がると襖を開けた。
翠も珍しく湯上がりなのか、浴衣姿で寛いだ格好だ。
いつ入ったんだろう。
「行こうか…」
約束だしと部屋を出ようとして、そっと手を繋がれた。
緊張しているのか、指先が冷たい。
「珍しい…な、翠」
「僕も、鴇と…その…恋人に…」
口ごもる翠が、可愛く見えてそのままそっと引き寄せた。
「ありがとな。気持ちは貰っておくよ?まだ考えさせて欲しいんだ…皆が好きだからさ」
「えぇ、わかっています…嫌われていないだけで嬉しいので。
では、僕の部屋に行きましょうか」
鴇が促すと、翠はゆっくり部屋に向かう。
するりと腰に回された手に頑張っているなあと笑いつつそのまま翠の部屋に入った。
几帳面な翠のように余計なものはなく片付けられた部屋。
窓からは月と庭の池が見えた。
ぱしゃりと池の鯉が跳ねる。
窓の下には小さな円卓に茶器のセットが置いてあった。
「どうぞ、こちらに」
座布団を薦められると俺はそこに座る。
翠がお茶をいれてくれた。
「いただきます」
「どうぞ、寒くはありませんか?」
「少し?」
風呂で温まった身体が冷えてきたのだろう。
聞かれると俺はふるりと身体を震わせる。
「なら、こちらをどうぞ」
肩から掛けられた上掛けは、薄い毛布のようなもの。
軟らかくて温かい。
「翠は寒くない?ほら」
持っていた湯呑みを円卓に置くと、掛けて貰った端を持ち上げて一緒に入らないかと誘う。
翠は一瞬動きを止めてから、そっと中に入ってきた。
寄り添うように座り、1枚の毛布にくるまると互いの体温が感じられて暖かく俺は小さな欠伸を漏らした。
「他人の体温って気持ちいいよな…」
同意を求めようと見上げた翠の唇が軽く額に触れた。
「鴇…好きです…少しだけこうして触れさせていてください」
「うん。口吻けまでなら…ね」
気持ちいいことは好きなのだから。
触れるのも触れられるのも好きだけれど、誰かを選ぶことができない。
一人だけ特別にするなら、他は切らなければならないのだから…優柔不断なのはわかっているけれど。
皆、イケメンなんだよね…攻略対象だけあって。
「鴇、何を考えているのですか?」
頬を包まれて啄むような口吻けが止まり、少しだけ責めるような音が言葉に混じる。
「ごめん。ちゃんとみんなのことを考えなきゃなって思ってさ?」
「そうですね、そんなまっすぐな鴇だからこそ好きになりました…皆も急ぎはしないと思いますからゆっくり選んでください」
「んっ…ふぅ…」
お月見に来た筈なのにゆっくりと月を見る時間は無くて、翠の気がすむまで付き合ってから、翠の腕の中で眠ったのだった。
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