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398話

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「ありがとうございました」
俺は頭を下げる。
食べ物って凄い。
キッチンの入口だけでなく、玄関と裏口にまで伸縮性の引き戸を設置してくれたのだ。
そして、俺はその度に作った甘味をお裾分けすることになった。
アップルパイとシナモンロール。
どちらもとても気に入ってくれたらしく、何か他に必要な事があれば遠慮なく言ってくれとニコニコして帰って行った。
どうやら肉食獣だからと言って甘味が苦手な訳では無いと言うのがわかり、ホッとした。
まぁ、レヴィも甘い物は好きだから……。
俺はこれで安心して料理ができる。
まぁ、獣型だと飛び越えるのは簡単にできてしまうだろうが。
「何だかんだで行けなかったからな、聖樹へ行くか」
「そうだね、寒くなってきたから暖かい格好しなきゃ……って、一番寒いの俺だよね」
リルたち獣人は立派な毛皮を持っている。
でも、寒いものは寒いのだけれど。
「だから、しっかりと着込んでな?」
「うん」
こちらの世界に来た時に着ていたミリタリーコートはいまだクローゼットの中にある。
それを久し振りに着ようかなと取り出してリビングルームみ戻る。
「はは、このコートにリュック。スマホ……俺が来た時と同じ物を身につけたら元の世界に戻るなんて事ないよな……」
ぽろりと零した言葉にガタガタとリルとレヴィが椅子から立ち上がった。
「リクト!?」
「え、何?」
「脱いでくれ!」
ガタガタと音を立てて近寄ってくるふたりに、俺は動くことができない。
「え?」
目の前まで迫ったふたりは、まるで土下座をするかのように膝を突いた。
リルの耳がイカ耳のように後ろに倒れ、尻尾もしゅんと下がっている。
レヴィは見た目はわからないが、その俺を見上げてくる表情が違って見えた。
「えっ、ふたりとも」
「リクト、新しいのはいくらでも買ってやるから……そのコートだけは脱いでくれ」
「頼む」
「あ、ごめん……そんなつもりは無かったんだよ?戻りたいとか全く無いし。でも、ふたりには不安……かな?うん……いいよ、ふたりが好きにして。でも、これが無いと俺が寒いから……リルの小さめな服を借りれるかな?」
俺の言葉にホッとした表情を浮かべたふたりに俺も膝を突いて抱きついた。
「俺だってふたりの素敵な伴侶はいるし、可愛い双子の子供だっているんだもん。戻れって言われたって嫌だよ」
チュッチュッとふたりの頬にキスをした。
頼まれたって戻らないってば。
でも、俺の考え無しの言葉にふたりを傷付けてしまったのは確かで。
ごめんなさいと謝った。
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