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360話

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「痛っ!」
俺は何度目か人差し指に走る痛みに顔を顰めた。
指の腹にはぷっくりと赤い血が。
それを慌ててチュッと吸うと口内にじわっと鉄の味が広がった。
「本当に俺って不器用なんだよなぁ……」
チクチクと布に刺繍を施す向こうでは、針を扱うから危ないと俺がベビーサークルの中に一人で入り刺繍をしていた。
双子は最初、物珍しそうに見ていたが途中で飽きたのか違う方で遊び始めた。
「リクト、俺も後で刺繍をしたい」
レヴィが持ってきたのは鮮やかな黄色のリボン。
そこには既にリルの名前が黒い糸で刺繍されていた。
何それ。しかもめちゃくちゃ上手い?
「リル、いつ練習したんだろ……めちゃくちゃ上手くなってる!」
「そうなんだよ、俺も驚いた」
レヴィも知らなかったらしい……嘘だ。
「黒の糸だなんて今回のリボンはリル柄だね……可愛いけど、レヴィは何色の刺繍糸を使うの?」
俺は針を針刺しに刺した。
「リルの糸に合わせようかと思っているが……オレンジもいいな。リルの色だ」
そう言われるとリルの毛色が想像出来て。
「じゃあ、俺は茶色かなぁ……リルの毛色にレヴィの瞳の色とか素敵だよね?何だか虎の子が産まれそうな気がする」
どんな子が産まれても可愛くない筈がないのだから。
「でもね、熊の子も可愛いよ?レヴィの小さな頃ってライみたいだったんだろうなって思うから。ルスもライもイケメンになるだろうけど、ミラみたいなおしゃまな女の子もいいよね?」
そう思うと、熊の女の子もいいなぁと思う。
「リルに、もう一本茶色とかベージュカラーのリボンに名前を刺繍してもらおうかな……折角だし……タイミングをずらして結べばいいよね?」
俺は黄色いリボンを手にすると、レヴィに頭を撫でられた。
「レヴィ……ありがとう、刺繍する?俺出るよ?」
ベビーサークルだから、きっとレヴィには狭いだろうなと思いながら、縫い掛けの布を置いて立ち上がった。レヴィが入れ違いにベビーサークルに入ると、やはりみっちりとしていて少し可笑しくて俺は笑ってしまう。
「指、気を付けてね?俺、刺しちゃったけど……痛いから……俺、この辺でゆっくりしていていいかなぁ?」
「ああ、なら俺も刺繍は止めて皆でゆっくりしようか。雨だし子供達も飽きてきただろうからな」
レヴィが手にした針を置いて、裁縫道具を片付け始める。
「レヴィ、俺が片付けるよ?」
「いや、大丈夫だ。リクトは子供たちの所に行ってやってくれ」
そう言いながらレヴィはしっかりと子供たちが開けられないバスケットの中に針や糸をしまうとそれを更にクローゼットに入れた。
最近の子供たちは元気すぎて目が離せなくなってきている。
嬉しい成長でもあるけれど。
「ありがとう、レヴィ行こうか」
何だかんだで俺はレヴィを待っていて、二人でリビングに向かうのだった。
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