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331話

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あれ、そう言えばこんなこと前にもあった?
「リクト!」
リルの少し焦った声。
「何だ、アイツら」
「え、ロウ?」
耳元で聞こえた低いロウの声。
唸るような威嚇の声に俺は掴まれた腕が痛くてロウを見上げた。
「リクトを離せ」
ロウに負けないくらいの低い声を出しながらゆっくりとリルがこちらへ歩いてくる。
レヴィは、ルスを抱いたままこちらへ来るのを踏みとどまった。
「ロウ、離して……ちょっと痛い……」
ロウとリルを交互に見遣り、一触即発な状態の理由の意味がわからなくてオロオロしてしまうと、ロウが舌打ちをする。
「マジか……道理で嗅いだことのある匂いだと思ったぜ……」
ポツリと呟いたロウは、あろう事か俺の腕からライを奪うと、来た道を一気に戻っていく。
「えっ!」
何があったかなんて分からない。
俺は奪われたライを取り戻そうとして手を伸ばしたが間に合わない。
待ってと叫ぼうとしたが喉からは声が出ず、伸ばした手は空気を掴んだ。
俺の隣をリルが駆け抜けてゆく。
ロウが一瞬のうちに獣化し、ライの首の辺りを噛んでいるのが見えリルも獣化してそれを追っていく。
俺の脳は理解が間に合わず、その場に崩れ落ちる。
何で?
どうして?
ロウは今会ったばっかりなのに……。
誘拐?
思考回路が上手く繋がらない。
俺はふらふらと立ち上がってからまた膝を付く。
「リクト、ルスを頼めるか?」
後から抱き起こされて顔を上げると、レヴィがロウが消えた方を見ている。
「うん……」
「ライは必ず連れて帰る。歩けそうなら一度ルスと家に戻れ、ミトさんたちに助力を頼んでくれ」
「わかった……ルス、おうち、帰ろう?」
何とか気持ちを奮い立たせ、ルスを抱く。
ルスはまだ何もわからないはずなのに静かに俺に抱かれた。
「いいな、リクト。必ずリルとライと三人で帰るからな?心配するな」
「うん」
「俺も行ってくる」
レヴィも、一気に獣化すると駆け出した。
「……っ……」
不安に押し潰されそうになりながら、俺はルスを抱き締めた。
さっきまで笑っていたのに……ロウだって、そんな悪い人には見えなかったのに。
どうしてロウがライを奪ったのか……わからない。
最初から誘拐するつもりなら、ぶつかった時にそうされてもおかしくないのに……。
それに、リルかレヴィかわからないけれど、どちらかを知っているような口振りだった。
『なー……まぁ……ま』
ルスがたしたしと俺の腕を叩く。
「あ、ごめんね……ルス、帰ろっか……ミトさんに話さなきゃ」
俺はふらふらになりながら道を戻るのだった。

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