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296話

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ケツァルコアトルとの戦いが嘘のように帰りは何事もなく穏やかな時間が過ぎていく。
カラカラと車輪の回る音が聞こえていた。
「ルス、お腹減ったのかな」
荷台の上を歩くルス。
しっかりとお昼寝をしたからか、目を覚ますとあっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。
パタンパタンと揺れるリルの尻尾に飛びかかるように遊んでいたが、動きを止めるとこちらをじっと見上げていた。
バッグから、ミルクを取り出すとすりすりっとすり寄ってくる姿は本当に大型の猫みたいで。
「揺れは強くないけど大丈夫かな」
『停めるか?』
レヴィがこちらを振り返り聞いてくる。
「大丈夫?ライにも飲ませたいし……」
『わかった』
レヴィが手綱を引くと動きが止まり、御者台からレヴィが降りて車輪が動かないように車輪止めを噛ませた。
だいぶ景色は変わって遠くに城壁が見える。
『もうすぐだからな』
レヴィの優しい声がして顔を上げると魔獸に水をあげていた。
ちょんちょんとルスの前足が俺の膝に触れて、俺はルスの前にミルクを置いた。
ルスはもう一人で飲めるけれど、ライには飲ませてやらなければならない。
「ライもミルクを飲もうか」
哺乳瓶の中にぬるめのミルク。
ライに差し出すとくっくっと飲んでいく。
もしかしたら喉が渇いていたのかもしれないと言う飲みっぷり。
もの静かなライ。生まれたての時は夜泣きがあったが、最近はルスと静かに寝ていることが多い。
「ごめんライ……」
ミルクを飲み干したライから、哺乳瓶を受けとる。
「もっと飲む?」
新しい哺乳瓶を出すも、もういらないらしい。
ルスが飲み終わったのかまだ欲しいとおねだりされて、ルスの器にライがいらないと言ったミルクを注ぐ。
『リクト、どうした?』
ルスを見守りながらリルが聞いてくる。
「うん、ライってまだ赤ちゃんなんだけどルスに比べると大人しいと言うか、我慢する?俺はミラくらいしか知らないからこれが普通なのかわからなくて……俺の世界の常識だと1年くらいはこのままだから……」
『そんなにか。こっちじゃ3ヶ月くらいすりゃ立って歩くぜ?個体差もあるけどな……草食系は総じて早いが、ルスもライも俺達の子だからたぶを肉食系だとは思うんだか、その辺りは気長に待ってやろうぜ?』
ポンと、リルの大きな獣の手が肩を叩いた。
「うん、どんな子でも俺達の可愛い子供だから」
真っ黒なライの髪に入る金にも見えるメッシュカラーがお洒落な小さな頭をそっと撫でてやる。
『まぁ、レヴィの血をひいてるからなのんびりやでもあるんだろ』
『おい、誰がだ』
ぬっとレヴィの顔が横に出てくる。
『のんびりや、だろうが。おふくろ達がどれだけお前の産まれるの待ってたか、お前は知らねぇだろ?』
リルに言われてレヴィは口を噤む。
少しだけ聞いたことがあるレヴィの過去。
「俺もそうだったみたいでさ、予定日よりも産まれるまでに時間がかかったって聞いたことがあるし」
『リクトの世界の話もおもしれぇよな、マジかよって話もあるし子供達はきっとおとぎ話みてぇで聞くかもなぁ』
『そうだな、俺達てさえ面白い……』
「そう?そのうち寝かしつけるときに読み聞かせとかおねだりされちゃうのかなぁ」
おとぎ話を思い出せるだけメモに残しておこうかななんて思いながら、俺はふと視線を向けた先に小さな花を見つけたのだった。
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