上 下
265 / 407

271話獣化

しおりを挟む
「それにしてもすげぇな」
リルが聖樹を見上げながら、呟く。
リルの腕の中でもぞもぞ動くルスが次の瞬間すると腕の中から落ちた!危ないと焦って抱き止めようと手を出したが、間に合わないと目を瞑った次の瞬間、なーぅと足元から声がした。
「ルス!」
服が脱げて、足元に居たのは小さな小さな小虎。
もしかしたら、ミラよりも小さいかも。
「ルス大丈夫?痛いところない?」
ひょいと抱き上げると、離して!とばかりにじたばたされて、痛いところは無さそうだと安堵し俺はそっとルスを地面に置いた。
「マジかぁ?早いだろいくらなんでも……」
ミラが早いと言っていたのに、それよりも早いのかと思いながらもそれも個性だろうとリルを見上げた。
トコトコ歩き出したルス。
人型だと、這うくらいでまだ歩けなかったのが獣型だと四つ足で平気で歩くのが面白い。
トトトッと走り出したかと思うと、辿り着いたのは王妃様の足元だった。
「あら、いらっしゃい」
王妃様は腰を屈めてからルスを抱き上げる。
「ルスだったわね。可愛い……」
頭を撫でられると、喜んでいたルスだったがふと王妃様の隣に立つ王様の腕の中でこちらを見ていた王子さまに、ぺちりと可愛い猫パンチならぬ虎パンチをした。
「わっ!」
慌てたのは俺だったが、パンチを受けた王子さまはキャッキャッと笑い始める。
それに俺はほっと胸を撫で下ろした。
「す、すみません……王子様に怪我はありませんか?」
「大丈夫よ、爪もちゃんとしまえているし、賢いわねルス」
「ミャウッ」
王妃様に誉められて胸を張って見せるルスの額を軽くペチンと叩く。
ダメなことはダメなのだ。
「ルス、ダメ」
悪いことは悪いと短くその場で叱る。これ大切。
ミラはそんなことは無かったが、やっぱりルスは男の子だからかなぁと、性別差別な事を考えてからそれは良くないと頭を振り、それからルスの頭を撫でた。
「ルス大好き……いい子」
頭を撫でると前足を伸ばして抱っこと甘えてくるルスを王妃様から受け取った。
「ルスは早いけれど、うちの子はどうかしらね」
笑顔で王妃様は王子様を見る。
王様の腕の中で小さな欠伸をした王子様。
「きっとタイミングでしょう。ライもまだですし……獣化できなくてもそれも個性で可愛い子供には代わりはありませんから」
リルとライを抱いたレヴィが近づいてくる。
「今日は記念日だな」
「あぁ」
「毎日が記念日になっちゃうね」
「いいんじゃねぇか?」
リルとレヴィが笑うと俺もつられて笑ってしまう。
「じゃあ、早く帰ってお祝いしなきゃならないわねリクト、馬車を手配させるから少し待ってくれる?」
王妃様の言葉に王様が片手を上げて頷いた。
腕の中でもぞもぞするルスは走り出したくてウズウズしているのを何とか宥めて、俺たちは馬車の到着を待つのだった。

しおりを挟む
感想 106

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...