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268話

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先ず通されたのは王妃様の部屋で。
中に入れるのは俺と双子だけと言うので、俺は双子をリルとレヴィに託した。
レヴィの腕の中から下ろしてもらい、レヴィにはリルからライが渡された。
リルとレヴィは双子を抱いて、その辺りを散歩するらしい。
ごめんねと双子を撫でてからリルとレヴィにキスをして離れた。
ぎこちない歩きにならないようにとゆっくり足を進めて開かれた扉から中へと入る。

「こんにちは、王妃様」

ソファーに座っていた王妃様に声を掛けた。
こちらから声を掛けるのは不敬にあたるのかもしれないけれど、それを咎める王妃様ではない。

「リクト、来てくれてありがとう」
「ご連絡いただき、ありがとうございます」

優しげな微笑みを浮かべる王妃様は、それでも少し元気がなく見えた。

「あの、聖樹はやっぱり元気がなくて……最後を見てあげてくれるかしら」
「勿論です」
「では、行きましょう?」

ソファーから立ち上がった王妃様の差し出した手を取って、ゆっくりとふたりで歩き出した。
あたたかな陽射しの下に出ると、辛かった痛みは感じなくなっていた。

「リクト、驚かないでね……数日の間に聖樹はだいぶ変わってしまったの」

王妃様に言われて頷くもら角を曲がった瞬間、飛び込んできた景色に足が止まる。
どうしたことだろう。
無意識に涙が一粒右目からこぼれた。

「頑張ってくださったのですね」

俺の言葉に王妃様はそうねと頷いてくれた。

「近付いても大丈夫でしょうか」
「えぇ、きっと大丈夫よ」

そろりそろりと足を進めた先には巨大な聖樹。
花を付けてくれたあの立派な形は微かに面影が残るだけだった。
ボロボロな木の肌、数枚しか残らない葉。
朽ちて落ちた枝。
それを見ただけで、寂しいと思うのと同時に感謝も感じた。

「凄く立派よね」
「はい」

俺は、頷くことしかできなかった。

「リクト?」

背後から声を掛けられて振り向くと、そこには伴侶たちと双子。
散歩をしながら個々へ来たのか、俺たちが此所へ来たから追いかけてきたのか。

「あ、ごめん……こっちに来ちゃった。随分と聖樹がかわっちやったね……もしかしたら疲れているのかもしれないね」

最後という言葉は使いたくない。
ありがとう。その言葉だけて送りたかった。

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