【ＢＬ】転生したら獣人の世界で何故か肉食獣に愛されています。

138話 ミラの獣化

獣人の子供の成長は早い。
目が開き立ち上がり、直ぐに歩き出す。
俺の常識が通用しないのはわかっていたが、それを目の当たりにするとやはり驚くものだ。

ミラが立ち上がった瞬間は忘れない。
ルーファスさんの膝から両足で立ち上がった瞬間をスマホに納める事ができなかったのが悔やまれるが。
それが、ミラが産まれてから７日目の事だった。
立ち上がることが出来てから歩き始めるのも早い。
呼べば名前を理解しているのか、トコトコと寄ってきてにこりと笑うその笑顔はまるで破壊兵器の如く俺たちをメロメロに溶かしたのだった。

「ミラ、にーちゃん行ってくるからなぁ」

玄関でミラを離さないのは、兄馬鹿になりつつあるリルで、すりすりと頬を擦り寄せている。

「ミラ、お兄ちゃんにいってらっしゃいしようか」

リルからミラを受けとると、その手首を触り、ひらひらと振って見せる。
それを見ながらリルは何度もこちらを振り返りつつ漸く出発した。
数日に１度、元居た街のギルド仕事か入り、それをこなすために出掛けて行くのだ。
しかも、長い距離を魔獣で駆けていく。
それと入れ違いで戻ってきたのはレヴィ。

「お帰りなさい、リルとはすれ違いだね…」
「あぁ、途中でリクトとミラを頼むと言われた」

レヴィも随分と急いで帰ってきたらしく、ほこりだらけで、その手でミラを触るのを躊躇っていたが、ミラは平気なのか、手をのばしている。

「ミラ、ただいま」

その手にちょんと指先を触れさせると、ミラは嬉しそうに掴んでいた。

「レヴィ、お風呂入ってきたら？でたらブラッシングするよ？」
「おう、してもらうか」

着ていた外套を脱いでハンガーに掛けると、レヴィは行ってくると寝室に向かった。
そのまま身体を洗ってくるのだろう。
俺はブラッシングをするためにミラを抱きながらブラシ等を支度する。
ミトさんとルーファスさんはふたりで商談の打ち合わせに出掛けたのだ。
レヴィが出てくるのを待って、その獣体にブラシを掛ける。
ミラはその間、レヴィの腕の中でよじよじしていたが、レヴィの驚いた声に俺は顔を上げた。

レヴィの腕の中には小さな小さな白い小虎がいた。

……ミラっ！？

獣体になれるなれないは個体によって違う。
幼い頃から獣体になれるものは少ないが、リルもレヴィも比較的早かったからミラも…なんて話をしていた矢先の出来事だった。

「え、どうしよ……レヴィ……」
『グル……落ち着けリクト……大丈夫だ』

そう言うレヴィも獣体を解くことなく座り込んだ姿はやはり焦っているようで、俺は虎のミラを抱き上げた。
ゆらゆらと尻尾が揺れて、ぺろりと顔を舐めてくるその姿は大きい猫なのだが。

助けてミトさん！！
俺の叫びが届いたか、ただいまぁと間延びしたミトさんの声が聞こえた気がした。