【ＢＬ】転生したら獣人の世界で何故か肉食獣に愛されています。

126話

ルーファスさんに連れられながら街の中を歩く。
穏やかな日常。
買ってもらった果物のジュースは街で取れる甘酸っぱい果実を搾った物だった。

「ルーファスさん……あの」
「お父さん……」
「え？」
「お父さんと呼ばれたい……駄目か？」

ルーファスさんの綺麗な瞳が俺を見下ろしてくる。
繋いだ手に力が入り、そっと引き寄せられる。

「お、お父さん……」

頼まれたらそう呼ばなければならないだろう。
ルーファスさんをそう呼んだら、とても幸せそうな表情を向けてくれる。
凄く綺麗な表情をしていた。

「ありがとう。リルは親父だし、レヴィは頑なにルーファスさんだからな……一人くらいお父さんと呼んでくれてもいいだろう？」

可愛らしく首を傾げたルーファスさんは、立ち止まってしまった俺の手をひいて歩き始める｡
そして、１本の木の近くで立ち止まる。

「わぁ、聖樹！」

街の中心だろうか、大きな実を着けた聖樹の樹があった。
ぼんやりと発光しているように見えるそれ。
その中に朽ちたリボンを付ける小さな小さな実が１つ。

「お父さん、あの実に触れても大丈夫ですか？」

何故か呼ばれるように近付いてその目の高さにある実を見詰めた。

「あ、あぁ……」

何か躊躇うような返事をしたルーファスさんに笑顔を向けると、俺はその実を両手でそっと包むように触れた。
あぁ、この子もあたたかい。
以前とは少し違い、実がぐぐっと成長していくそんな気がした。

「生まれてくるのは、次の新月かな。早くパパとママに逢えたらいいね」

俺はゆっくりと話しかける。
この子はまだ生きている。

「お父さん、この子の両親はわかりますか？」
「俺たちだ……」
「え？」
「ミトと俺の子だ……リルの下にもう１人できるかと望みをかけて結んだが……もう、10年になるか……ずっとこのままだったが、リボンを外すことができなくてな……ありがとうリクト」

ぎゅうと抱き締められてから、頬に熱い涙が落ちてきた。

「お父さん……俺にも弟か妹ができますかね？嬉しいなぁ……家族が増えるの」

新月の日に、また来たいなと思いながらミトさんにも報告しないとと、ルーファスさんの手を掴む。
ルーファスさんも頷いてくれてそのまま歩き出した。
少し早足になりながら、家の中に飛び込んだルーファスさんと、奥から聞こえてきたミトさんの悲鳴。
そして、嗚咽。
リルとレヴィが俺を迎えてくれて、抱き締められた。

リルとレヴィはルーファスさんの報告を聞いていたのだろう、たくさん俺を撫でて抱き締めてくれた。