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1・2話

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俺は橋爪陸翔リクト
25歳。
今、見慣れない世界に来ている。
目の前にいる屈強なふたりの男達?の頭には耳がある。
そう言われると普通なんだけど……いや、普通じゃない。
その耳はどう見てもふわふわのケモミミなんだ。
しかも、顔の横ではなく、頭についているから、やっぱりケモミミなんだよ。
どこぞのテーマパークに売っているカチューシャ見たく見えれば良かったんだけど……いや、それもよくないか。
それは、引っ張ったら痛い!って言われそうなふわふわの可愛い耳だった。

☆☆☆☆☆☆☆

ある日の夜、俺は一番最後に店を閉めて建物を出た。
カチャリとオートロックが掛かる音がして、ノブを動かすもこちら側から開かないことを確認してからその場を離れる。
今日も1日働いた。
少し寒い夜風に俺はコートの襟を直す。
最近買ったお気に入りのミリタリーコートはカーキ色に茶色のフェイクファーがついている。
ちょっとお高いブランドだったが、思いきって買ってしまった。
中はタートルネックのオフホワイトセーターにブラックデニムと足元はスニーカー。
通勤に公共交通機関を使うため、背中に背負うリュックはカモフラージュ柄だ。
寒いからと足早に駅まで歩く道すがら、ふと足元に擦り寄ってきた猫に気づいて足を止める。
闇夜の中からするりと抜け出てきたような黒猫。
可愛いなぁなんてしゃがみこんで頭を撫でていた瞬間、車のヘッドライトが俺を照らした。
あ、ぶつかる?
なんて考えることなどできずに眼前に迫ったトラック。
そこで俺の意識はフェードアウトした。

☆☆☆☆☆☆☆

何かつつかれた用な衝撃を受けて俺は目を覚ました。
「おい、生きてるぞ!」
みじろいだ俺の頭の上から声が降ってくる。
すげー腰に響くいい声だ。
「何だよこいつ……変な奴だな」
「だけど、結構美人じゃねぇ?牡かな……牝……か?」
二人の会話を聞きながら俺は目を開けた。
「……ん……此処何処……」
漏らした声にザザッと後退った音がした。
「おい、今の声聞いたか?凄いいい声だったんだけど……」
「ま、まぁ生きてるなら連れていってやるか……何処から来たのかもわからないしな?」
そんな会話が段々しっかりと聞こえるようになって俺は辺りを見回す。
森の木々の隙間から溢れる光が辺りを照らしている。
ふわりと、薫ってくるのは甘い蜜の香りだろうか。
「……あの、貴方達は……?」
乾燥からくるのから少し掠れてしまっている声に喉を触り、小さく咳をすると、片方の男が筒のようなものを差し出してくる。
「水だ、とりあえず飲め」
「………ありがとうございます」
受け取ったはいいが、開け方がわからない。
複雑な作りではなさそうだとは思いながら触っていると、差し出してきた男の方が開けてくれた。
口をつけてこくりと飲み込んだ水はさながら甘露のようで、俺の身体の中を滑り落ちていった。

「ご馳走さまでした」
水筒を返すと、片方の男の人(?)は、それを受け取り腰へと下げる。
「つかぬことをお伺いしますが、此処は何処でしょうか……」
どうやら言葉は通じるけれど、俺がいた世界ではないのは一目瞭然だ。
頭の上に獣の耳が付いている人間なんてイベント会場でもあまり見ない。
まぁ、俺はヲタクと呼ばれる人種で、流行りの異世界トリップや転生もののファンタジー小説など、結構読んでるから、そんな主人公になったのかもしれない。
なんてお気楽な事を考えていられないのが現実だ。
でも、本当に俺がそうなるというか、あくまでもそれは本の中だけだと思っていたのだけれど……どうやら本当みたいなんだよね。
小説の主人公たちは、何かチートな能力が付与される事が多くて俺にもあるかと思ったが、ステータスなんて見られないし……勇者の称号なんか付いてる筈がない。
ま、多分俺はあちらだと車との接触で良ければ重体、もしくは死んでいるんだろうから、帰ることは考えない方がいいのだろう。
だってトラックが突っ込んできたんだよ……即死の可能性が高いかなぁ。
それじゃなきゃ異世界召喚?
何のために?
俺ができるのって、トリミングくらいだよ?
動物は大好きだけどさ。
ペットショップの店員をしているからね。
それと……俺は誰にも言ってないけれど恋愛対象が男性だったって言うのがある。
幼い頃から好きになるのは男性ばかりで、それを不思議に思わずに幼い頃から過ごしてきた。
大人になってからは、巷で言う草食系だから好きになった人とどうなりたい訳でもなかったため、恋人や子供は望めないとそれで動物に走った経緯があるけどね。
それはいいとして、俺の言葉を受けた目の前のふたりは顔を見合わせてから、俺に合わせるように膝を折ってしゃがみ視線を合わせてくれる。
173cmある俺よりも頭のひとつぶんくらいは高いだろう、その身長を屈めてゆっくりと。
「俺は陸翔と言います。名前」
「リクトか、俺はリル、こっちはレヴィだ」
自分を指差しリルと名乗った方は金色の髪に所々黒が入り交じり、頭の上には丸い耳、すらりと長い尻尾は『虎』の獣人で、レヴィと紹介されたのは焦げ茶色の髪に丸い耳の『熊』の獣人だった。
リルはすらりとしたしなやかな身体つきだが、服の下はガッチリとした筋肉なのがわかるし、レヴィは見た目どおり筋骨隆々なのだ。
どちらも俺よりは年上に見えるけれど、どうなのだろう。
「お水をいただいてありがとうございます。俺、ちょっと遠い場所から来たみたいで……此処が何処かわからなくて。行く宛も無いですが、何処かで仕事ができたりしませんか?」
丁寧に言葉を選び頭を下げると、ふたりは驚いたように目を見開いた。
何にびっくりしたのだろうか。
それすらもわからないまま、俺はふたりを見上げていた。
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