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9話

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花を吐くようになってから、少しずつ味覚が変わってきた。
食事が美味くない、
今日も何とか食事を終えて席を立った。
騎士団長も、騎士達と同じように食堂で食事をする。
トレイを片付けると俺はそのまま執務室に向かう。
最近口にするのは珈琲から紅茶へとストレートから少量の砂糖を紅茶に入れるようになった。
また、好むのは甘味。
先日買ったミントキャンディが常に口の中にある状態が続く。
爽やかな香りを楽しみながらもこの口の中に拡がる甘さに昔は眉を潜めた。

「もう、残りがすくない……か」

デスクの上の小瓶に目をやる。
非番になるにはまだ数日。
今のペースならば足りなくなるのは必須だった。

「どうするか」

まだ1瓶は手付かずがあるが、これは実はラーサティアに渡そうかと思っていたものだった。。
思い出の味とまではいかないだろうが、少しでも懐かしいと思わないだろうかと。
口に入れたミントキャンディを無意識にガリッと噛み砕く。
口の中に広がった風味に目を伏せた。

「入れ」

扉にノックがあった事にふと意識を戻すと声を掛けた。

「ラーサティアです、書類をお持ちしました」

ドアノブがまわり扉が引かれると、其処に立っていたのは確かにラーサティアだった。
胸に抱くように書類を持っている。

「隊長から預かって参りましたので、決裁をお願いいたします」
「あぁ、其処に置いてくれ」

机の端を示すと、ラーサティアは頭を下げてから中に入り其処へ書類を置いた。

「団長、あの……もしよろしければこちらを」

ラーサティアが書類を置いたその横に置かれたのはキャンディの瓶だった。
俺が今食べているものと同じもの。

「お好きなようでしたので、良ければ……と」
「そうか」
「団長に幼い頃にいただいた店の物ですよね」

あぁ、あのときの事を忘れていなかったのだなと懐かしく思い出した瞬間、あの吐き気に襲われる。
これはまずいと口を抑えるも耐えられそうに無いと椅子から立ち上がる。

「書類は、預かる……帰って……」

いいとまで口に出来ずに俺は立ち上がり洗面所に駆け込む。
こう言うときに団長室に洗面所やシャワーブースがあって良かったと思いながら花を吐いた。

「団長?大丈夫ですか?」

扉の外からラーサティアの声がする。

「大丈夫だ、仕事に戻れ」

出し続ける水音で聞こえているだろうか。そこまで気が回らず花を吐き漸く蛇口を止めた瞬間、背中にそっと触れられた手があった。

「……っ!」

其処にはそっと俺の背中に触れながらラーサティアが立っていた。

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