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エピローグ

10-1

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目を覚ましたら、其処にはアイヴィスの寝顔があった。
昨夜の事を思い出してセラフィリーアは赤面しながらもぞりと動くと、腰に回されていたアイヴィスの腕に一瞬力がこもる。

「アイヴィス様、おはようございます」

端整な顔を見下ろし、そっとその額にキスをすると漸く瞼が開き笑みが溢れる。
眠っていたのは昨夜と同じ部屋で、だが敷布などに昨夜の名残は全く無い。
眠っている間に全てが終わっていて夢だったのではないかと思うも、身体に残る鈍い痛みやそこここに散った赤い痕が夢でないと教えてくれる。

「おはよう……もう昼近いか……」

アイヴィスが見上げた先には水時計。
昼という単語にセラフィリーアは顔面蒼白になる。
何時間寝ていたのだろうか。
それとも何時間抱き合ったのだろうか。
きっとアスラン達がいつ起きてくるのかとやきもきしていることだろう。

「アイヴィス様……今日は……」

「公務は休みだ、ゆっくりしたい」

触れるだけのキスをされて、セラフィリーアはどうしていいかわからなくなる。
何が正解なのか。
恋人たちの迎える朝。

「何か持ってきて貰おう、軽食を」

アイヴィスが上体を起こしてベルを鳴らすとハワードがワゴンを押して入ってくる。
身体を起こすとアイヴィスがガウンを着せかけてくれ、まだ自分が全裸だったことに気付く。
慌てて前を隠すように毛布を引き上げると、ハワードは嬉しそうに笑う。
ようございました。
口が静かに動き、そのまま食事の準備を始め、セッティングが終わると静かに退室していった。

「セラ少し食べよう。ジュースもあるから飲むだけでも」
「はい。いただきます」

寝台の上で食事を取らせようとしてきたアイヴィスを止めて、セラフィリーアは何とかテーブルに向かい椅子に座る。
何も履いていないし、まだ何か挟まっているような感覚は拭えないが、痛みは無いし大丈夫そうだった。

「サラダとサンドイッチ、フルーツ、ジュース。肉や魚が食べたいなら用意をさせるが?」
「アイヴィス様が大丈夫なら私はじゅうぶんです」

胸がいっぱいで食べられるかもわからないが、少しだけジュースを飲んだら食欲が出てきた。

「ルディアス……煩い」

アイヴィスがぽつりと溢すと、遠くでグルルッと竜の鳴き声がした。
ルディアスが何か喋りかけて来ているようだが、セラフィリーアには触れていないからか声は聞こえない。
アイヴィスは何かをやり取りしているのだろう何かを呟いたあと、小さく溜め息を吐き出すとこちらを向いた。

「セラ、ルディアスが祝福を贈りたいのだと……窓から顔を出して欲しいらしい」
「今、ですか?」
「あぁ。もう少し待てと言ったのだが、シュクラも咬んでいるから引き下がらない……大丈夫なら少しだけ……な」
「わかりました」

セラフィリーアは頷くと立ち上がる。それに合わせてアイヴィスも立ち上がり、セラフィリーアを支えるようにして窓辺に向かう。
薄くて豪奢なカーテンを引くと、眼下にはルディアスとシュクラがいた。
窓を開き手を振ると、首をもたげたルディアスが歌を歌う。

「初めてです……竜の祝福」

セラフィリーアをキラキラと光の粒が包む。
地上から飛び立ったシュクラは、窓辺に近寄り口に挟んだ花を差し出してくる。
それをセラフィリーアは受け取ると、シュクラは静かに離れていった。

飛竜が祝福を歌った。
その報は瞬く間にアルトリア国内を巡った。

シュクラが口に咥えていたのはシロツメクサ。

小さな白い花。
ルディアスの歌で満開になったシロツメクサをシュクラが摘んでセラフィリーアへと贈る。
そして、アイヴィスはファレナスのしきたりに則って左手の薬指へシロツメクサの意匠を施したリングを贈った。

このときからセラフィリーアの花はシロツメクサになり、すべての持ち物の何処かには必ずシロツメクサが入ることになる。

「アイヴィス様、どうしてシロツメクサなのですか?」

「覚えていないか?私たちが出逢った時のことを」

「ファレナス……で、迎えに来てくださった……」
「いや、それよりもずっとずっと前だ。今度、その時の話をしようか」

セラフィリーアは空の上で風をきる。
シュクラとアイヴィスの腕に抱かれて。

二人が贈ってくれたシロツメクサの花冠を頭上に頂き。


まだ一人で飛竜を駆けることはできないが、支えてくれる人がいる

だから何処へでも行けるのだ。

空と水の交わる場所へも。
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