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9章 これから

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「お花はいかがですか?」

花売りに声を掛けられると、アイヴィスは1つ貰おうと、花束を買ってはセラフィリーアに渡す。
花束と言っても、一束は数本の花しかないのだが、それが5束、10束になると落としそうでハラハラする。
見かねたルシウスが花籠を買うと手渡してくれた。

「アイヴィス程々にしろよ?」

ルシウスの声にアイヴィスはにこにこと笑う。

「セラに花を贈りたいんだ。幸せの象徴だろう?」

毎朝届けられる花は、アイヴィスが庭から選んでくれるものだと聞いている。
だが、これ以上買って貰うのも申し訳ない。

「アイヴィス様、アイヴィス様。あの…買っていただけるのは嬉しいですが、アイヴィス様と手を繋ぎたいので…この花は騎士団の方に離宮に運んで貰っていいですか?」

アイヴィスの袖を軽く引いて耳元で囁くと、アイヴィスは一瞬動きを止めてからルシウスに篭ごと渡す。

「ルシウス様、すみません…それと、ここに小銭が入っていますから、できるだけ幼い花売りの子の花束を買って、離宮に届けて貰うようにお願いします」

小さな布袋を取り出してから花篭の中に入れる。
セラフィリーアには私服の護衛騎士はわからないが、ルシウスとアイヴィスにはわかっているだろう。
それに、アイヴィスが護衛を呼び寄せるよりは、ルシウスがたまたま見かけた仲間を呼び寄せるように振る舞った方が怪しまれないだろうと思った瞬間、ルシウスはにやりと笑うと道向こうに手を振ると、やはり見知った護衛姿の騎士が親しげに手を上げて近寄ってくる。
一言二言交わした相手は花篭を受けとると、軽く頭を下げてから歩いて行った。

「思ったよりも近くにいるんですね…」

思ったよりもルシウスが手を振った瞬間、ぴくりと反応した人物が意外に多かった。
セラフィリーアがわかったくらいだから、実際はもう少し多いのかもしれない。

「んー?もう一度あいつらも鍛えなおしか」

ぽつりとルシウスが呟くと、アイヴィスが苦笑する。

「ばれたら護衛じゃねぇからな」

そうなのかなと、アイヴィスを見上げるとこくりと頷く。
その辺りは良くはわからないので、任せなければと思いながら露店や店先を見て回る。
そして小さな店の前でセラフィリーアは足を止めた。

「可愛い」

其処は木彫りを扱う店。
窓辺に置かれた木彫りの竜を見て足を止めたのだ。

「アイヴィス様、これルディアスにそっくり」

漆黒の竜。
所々に入った金色。
掌よりも小さなものだが、精巧に作られている。

「あぁ、ルディアスだろう…店の中に入ってみるか?」

「いいのですか?」

扉にも綺麗な花の彫刻がしてあり、美しい。

「こんにちは」

セラフィリーアは躊躇いなく扉を開く。
カランカランという鐘の音がした。
店の奥からはいらっしゃいませと言う明るい声。

「あの、窓際の飛竜を見せて貰ってもいいですか?」

「どうぞ、でもあれは売り物でなくて…」

姿を現したのは30歳前後だろうか、美しい人だった。

「え、そうなのですか?ルディアスにお土産と思ったのに…残念です…でも他のものも見せてください」

「あ、どうぞ…」

「悪い、主人にルシウスが来たと伝えて貰えるか?」

ひょこっとルシウスが脇から顔を出して店員に伝える。

「えっ!あ、少しお待ちください!!」

パタパタと店の奥に入っていった店員が、少ししてから屈強な男を連れて戻ってくる。

「おぅ、ルシウス久し振りじゃねぇか!ん?そっちは陛下か。じゃあ、そっちは王子かぃ?」

豪快に笑ったのは髭面の40歳台に見える男だった。
ルシウスとがしっと包容したかと思うとアイヴィスとも気軽に握手をしてから、セラフィリーアを抱き締めようとして二人に止められていた。

「セラ、ミゲルだ。前の赤飛竜騎士副団長だ。ルシウスの前任だな」

アイヴィスの紹介に、セラフィリーアは慌てて頭を下げる。

「初めまして、セラフィリーアと申します」

「おうおう、陛下、ずいぶんと別嬪な王子さん掴まえたな。っつーかずっとこの王子しかいらねぇっつってたもんなぁ。
おめでとさん」

アイヴィスの髪をくしゃくしゃと撫で回す姿に、鬘が取れてしまわないかとハラハラしつつ、豪快に笑うミゲルを見上げる。
この人が木を彫ったのだろうか。
太い腕からあんな繊細な物が作れるのだろうかと思うのは失礼なのだろう。

「あー…もし良かったら作りたて何だが貰ってくれるか?」

ミゲルが棚の奥から小箱を取り出してくると、その中にはシュクラがいた

「シュクラ!!」

「あの飛竜が綺麗でさ、つい彫っちまった。店には出せねぇし、どうするかと思っていたんだが良かったら貰ってくれ。あの窓辺の黒い飛竜と対になってんだ。良かったらあっちも」

「えっ!でも…」

セラフィリーアは戸惑いを隠せない、こんなに素晴らしいものなのだから、対価は支払わなくては。
ただ、今の自分の手持ちだけで足りるとは思えない。
アイヴィスが貸してくれるだろうか。
ちらりとアイヴィスを見上げるとアイヴィスからは笑みが帰ってくる。

「遠慮しないで貰っておけばいい。今度近くでシュクラを見たいって言ってくるだろうから、シュクラにお願いをしておけばいいよ」

「お、陛下わかってるね、あの飛竜…ちょーっと近くで見させて貰って、スケッチなんかさせてくれりゃそれでいいんだがなぁ?」

窓際のルディアスをミゲルはつまみ上げてシュクラと一緒に箱に入れる。

「ありがとうございます、シュクラに頼んでみますね!」

シュクラを見ながら、時間があればミゲルをもてなしつつ何かお返しをすればいいかと考えながらセラフィリーアは箱を胸の前で抱く。
帰ったら飾ろう。そう決めて。
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