【BL】空と水の交わる場所~ゲーム世界で竜騎士になりました。

梅花

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9章 これから

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「この良き日に、ご婚約おめでとうございます」

次々に掛かる言葉。
その言葉に返事をしているだけで午前中が終わってしまったが、言祝ことほぎの列はまだまだ途切れることはない。
ほぼ相手をしているのはアイヴィスで、セラフィリーアは誰が来ているのかほぼわからない。
騎士団員なら辛うじてわかるくらいで、それでも全く知らないよりは安心した。
アイヴィスは、未だに戻らない記憶があることと、体力が戻っていないことを告げてくれるが、実際はそんなことはなく元気でむしろ記憶は戻ってきているのだ。

小さく息を吐くと、気付いたハワードが飲み物を持ってきつつアイヴィスに耳打ちをする。
すると、アイヴィスは手を上げて注意を促しゆっくりと立ち上がった。

「皆の気持ちは嬉しいが本日は下がらせて貰う。行こうかセラ」

「えっ、でも…」

「顔色が良くない。抱いていこう」

えっ、えっと慌てていると、アイヴィスに抱き上げられる。
今日は白い軟らかなドレスの為、抱き上げられても不都合はないが…いや、男として抱き上げられるのはどうなの?
問題無いと言いたげなアイヴィスに、任せるつもりでいると、アイヴィスはセラフィリーアを抱いたまま壇上から危なげない足取りで降りていく。すると、並んでいた列が海が割れるように左右に開き道ができた。
そのなかを歩いていくアイヴィスはいつものように格好いい。

手を振ってやれと、耳打ちされてセラフィリーアは抱かれたまま小さく手を振った。

流石に集まっていたのは貴族達のため、不満の声は上がらなかったが何人かは胸の前で手を重ねると涙を浮かべる人もいた。
そうだよね、大切な皇帝陛下の初めての婚約だもんね。
早く子供も見たいだろうし…人によっては自分の息子をアイヴィスの嫁にしたいのもいるだろう。
ごめんね…の意味も含めて目を伏せた。

「さて、抜け出し成功だな」

アイヴィスの私室に入り、ふわりとソファーに下ろされるとキスをされる。
触れるときに香る爽やかな薄荷の香りが爽やかでセラフィリーアは好きだった。

「体調が大丈夫なら少し街を歩いてみるか?」

「大丈夫でしょうか…行きたいですが」

一緒にいられるだけで幸せなのだし、アイヴィスも疲れているだろうとそちらを心配する。
二人でゆっくりとできる時間も多くはなく、まだ婚前ということで夜を共にした事がない。

「ルシウスが付くが、それで構わないなら大丈夫だ。着替えも用意してある」

ハワードが運んできた一式は、華美ではなく商人に見えるような落ち着いた装い。
それに髪を隠すためのウィッグ
いつの間にと思いながらも着替えるために受けとると、セラフィリーアは此処で着替えようと首の後ろに手を回す。

「セラ、着替えは奥の部屋を使って下さい。ハワード手伝いを」

「セラフィリーア様、此方です」

「え、アイヴィス様の着替えは…ハワード…」

ハワードに促されセラフィリーアはアイヴィスのフィッティングルームに入れられて、ハワードの手でドレスを脱がされた。
手早い動きはアスラン達以上で、流石としか言いようがない。

「アイヴィス様は着替えなどは大概ご自分でできますから、お気になさらず。早く着替えれば早く出掛けられますよ?お急ぎを」

ハワードにせっつかれてセラフィリーアは慌てて着替えを始めるのだった。

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