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8章 命

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トン。
セラフィリーアは馬上で何度めか矢筒を叩く。
増えた矢を番い放つと魔獣の眉間に当たり、ドウッと崩れるとやがて更々と消えていく。
魔獣は致命傷を与えると魔石を残して消えてくれるからありがたい。

深夜、第3陣が夜営地を離れてから直ぐに魔獣とぶつかった。
流石に大型魔獣はいないが、小型の狼に似た魔獣や猿の魔獣、蝙蝠の魔獣等が多い。
日中は虫の魔獣が多いのだが。
魔獣の目は総じて赤い。
それに合わせてセラフィリーアにはファレナスから持ってきた暗視スコープがある。
まだ精度はいまいちで、数もあまり無い。
飛竜騎士団には夜目のきく飛竜がいるので、配るのは騎士と兵士の夜部隊にで、使い回す。
アイヴィスにファレナスでスタンピードが起こったときに夜はどうしていたか聞かれた時に暗視スコープがあると伝えると、どんな性能なのか、作り方を教えてくれるか、輸入できないかと言われ、ファレナスの財務大臣や防衛大臣と話し合い、3万個ほど譲ってもらうことができた。
全員に行き渡る訳ではないが、夜に活動する魔獣は多くはないため、それだけあれば何とかなるだろうとアイヴィスは即決をした。

「だいぶ落ち着いてきたかな」

セラフィリーアは流れる汗を拭うと弓を下ろした。
次の瞬間、けたたましいほどの飛竜の警戒音が鳴る。

「…っ!」

『ママっ!』

「コズミどうしたの?」

慌てたコズミの声に緊張が走る。

『リヴァイアサン』

「り、リヴァイアサン!?コズミ動かずにそこにいて?」

リヴァイアサン、中国系ドラゴンのように細長い身体と翼を持ち、空を自由に泳ぐ魔獣だ。
これが出ると騎士や兵士はほぼ役にたたない。
飛ばれると厄介な魔獣だ。
硬い鱗は剣や弓を通しにくい。
鱗と鱗の隙間を狙うのと、両目を潰すことを先にしなければ、城へ向かわれたら防御壁があっても危険なのだ。

「すみません、誰か団長へ伝言を…大型魔獣リヴァイアサンが出現。弓の名手は飛竜騎士団へお願いします!」

軍馬の手綱を操り、セラフィリーアもゲートの方に向かう。
頭上には飛竜騎士がゲートを一斉に見ていた。
厄介だ…この中で何人がリヴァイアサンと対峙したことがあるだろうか。
セラフィリーアとしては初めてなのだ。
心臓が煩い。

「コズミ、アイヴィス様を呼べる?話がしたい…」

暗闇の中を人を避けながら飛竜騎士団の陣地へ急ぐ。

『大丈夫、皆集まってるよ』

コズミの言葉にホッとしながら、明るくなっている天幕を目指した。

「失礼いたします!セラフィリーア参りました」

大きく深呼吸をしてから天幕を開く。
そこにはアイヴィス様と飛竜騎士副団長の二人がいた。

「すみません、この中にリヴァイアサンと対峙したことがある方は?」

セラフィリーアの問い掛けに3人が首を振る。

「簡単に説明いたします。リヴァイアサンは空飛ぶドラゴンで、飛竜とは見た目は似ていませんが、攻撃は近いです。
個体にもよりますが、飛竜一騎よりも格段に強いです。
ドラゴンブレスや爪、牙、尻尾での攻撃を繰り出します。
剣や弓を通しにくい鱗を持っていますので、遠距離攻撃は役に立たないとお思いください。
城へ向かわれたら一般市民がターゲットになりますので、先ずは空から地上に落とします。
まだ、ゲートから出てきていませんが、出てきた瞬間、左右の瞳を弓で潰して下さい…どなたか弓の名手をお願いします。
失敗すれば痛みに怒り狂いますので必ず仕留められるよう…地上に落としたら翼をもいでとどめをさすまで攻撃をしてください」

「それ以外に方法は」

「あるなら、そちらをどうぞ!」

アイヴィスの問い掛けに珍しくセラフィリーアは苛つき声が堅くなる。
それ以外の方法があるなら、こちらだって教えて欲しい。それで怪我人が減るならば万々歳なのだから。

「また、注意するのは個体によってシールド展開できる個体がいます。こちらの攻撃が効きにくい場合は体力の削り合いになりますので、回復できる術者や薬をあるだけ用意しておいた方が宜しいかと」

長い言葉を言い切ると、セラフィリーアは大きく深呼吸をした。

「ネイト、頼む」

「畏まりまして」

「セラ、力を貸して欲しい…」

「やりましょう」

アイヴィスの言葉に指名を受けた二人は頷く。

「ルディアス、飛竜全てに伝令だ」

天幕の上を見上げたアイヴィスは、愛竜であるルディアスに伝令を頼む。
ぐるるるっと、竜の唸り声が聞こえた。
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