上 下
85 / 124
7章 記憶

7-2

しおりを挟む
…あれ?
これは『俺』の記憶…か。
四角く縦に長い建物。
黒い髪、黒い瞳の人達が歩いている。
良く見慣れた風景。
四角い箱の中では人が騒がしげに喋っている。
凄い勢いで走る箱
道行く人は何か四角い板を触っている。

それが暗転して違う場面になった。

のどかな田園
高い城壁
敷き詰められた石畳

あぁ、ここはゲームの中だ。
一番好きだった剣と魔法の世界…
家族がいて、友達がいて…作物を作ったり公益をしたり。
楽しかったなぁ…

…隣国との公益や、ガチャを引いて出たアイテムを増やしたり…イベントをしたり。
のんびりとした無課金ゲームだったけど、たまに魔獣…モンスター討伐があったり、なかったり…

モンスター…!?

前回あったのはいつだっけ?
年に1度はあるはずなのに…1年以上魔獣の襲来が無ければスタンピード…大発生があるはずだ。

俺は目を覚ます。



「アスラン…アスラン!」

飛び起きた先、手元の鈴を鳴らす。
心臓が早鐘を打って、変な汗が背中を伝うのがわかった。

「アイヴィス様は?…スタンピード…冬前に…」

現れた少年に意味を成さない言葉を吐く。

「セラ様、セラ様…落ち着いてください。スタンピードには備えてあります、ファレナスもアルトリアも…アルトリアから飛竜をファレナスに派遣して下さることも決まっておりますから、セラ様は心配なさらないでください」

アスランに抱きついて過呼吸気味に告げると、ポンポンと背中を叩かれ、ゆっくり呼吸をしてくださいと促された。

「スタンピードは冬前ですか、アイヴィス様に伝えます。昔から何故かセラ様は魔獣の発生やスタンピードには予言めいた事を言われて、それが外れた事はありませんから…大丈夫ですよ、安心してくださいませ」

それはそうだ。
ゲームでは、イベント告知があり、それに備えて装備を固める。
セラフィリーアも、たまたま出たレアアイテムの『氷樹の弓矢』で応戦したこともある。

「シリウス陛下にも、早急に信書を出して頂きます。お茶をいれますから、ゆっくり飲んでくださいませ。
私が行ってセラ様の氷樹の弓矢もファレナスから預かって参りましょうか」

心配なのだろうと気遣ってくれるアスランから離れると、すまなそうに目を伏せて、セラフィリーアはこくりと頷いた。
この腕では弓を引けないだろう。
それでも手元に無いのは不安だった。

だが、どうしてかファレナスに帰るとは思い付かないでいる。

「アイヴィス様に武器を持ち込む許可をいただいてからにして?
それと、少しでも体力をつけなきゃね…前線には出られなくても、支援くらいはしたい…」

アスランに気付かれないようにストレッチなどで少しずつ動けるようにしていた身体。
明日からは少しでも無理をして、前の身体までとは言わないが体力をつけたいと、セラフィリーアは決めた。

戻らない記憶は仕方ない、無い物ねだりをしても仕方ないとセラフィリーアは天井を見上げる。
あとどのくらいでおこるかはわからないスタンピード。
1日1日を大切に生きなければならない。
やれるだけやろう。
セラフィリーアは漸く自分の意識の中に違う意識があることに気付き始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

転生したら乙女ゲームの攻略対象者!?攻略されるのが嫌なので女装をしたら、ヒロインそっちのけで口説かれてるんですけど…

リンゴリラ
BL
病弱だった男子高校生。 乙女ゲームあと一歩でクリアというところで寿命が尽きた。 (あぁ、死ぬんだ、自分。……せめて…ハッピーエンドを迎えたかった…) 次に目を開けたとき、そこにあるのは自分のではない体があり… 前世やっていた乙女ゲームの攻略対象者、『ジュン・テイジャー』に転生していた… そうして…攻略対象者=女の子口説く側という、前世入院ばかりしていた自分があの甘い言葉を吐けるわけもなく。 それならば、ただのモブになるために!!この顔面を隠すために女装をしちゃいましょう。 じゃあ、ヒロインは王子や暗殺者やらまぁ他の攻略対象者にお任せしちゃいましょう。 ん…?いや待って!!ヒロインは自分じゃないからね!? ※ただいま修正につき、全てを非公開にしてから1話ずつ投稿をしております

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜

BL
公爵家の長女、アイリス 国で一番と言われる第一王子の妻で、周りからは“悪女”と呼ばれている それが「私」……いや、 それが今の「僕」 僕は10年前の事故で行方不明になった姉の代わりに、愛する人の元へ嫁ぐ 前世にプレイしていた乙女ゲームの世界のバグになった僕は、僕の2回目の人生を狂わせた実父である公爵へと復讐を決意する 復讐を遂げるまではなんとか男である事を隠して生き延び、そして、僕の死刑の時には公爵を道連れにする そう思った矢先に、夫の弟である第二王子に正体がバレてしまい……⁉︎ 切なく甘い新感覚転生BL! 下記の内容を含みます ・差別表現 ・嘔吐 ・座薬 ・R-18❇︎ 130話少し前のエリーサイド小説も投稿しています。(百合) 《イラスト》黒咲留時(@kurosaki_writer) ※流血表現、死ネタを含みます ※誤字脱字は教えて頂けると嬉しいです ※感想なども頂けると跳んで喜びます! ※恋愛描写は少なめですが、終盤に詰め込む予定です ※若干の百合要素を含みます

痴漢に勝てない肉便器のゆずきくん♡

しゃくな
BL
痴漢にあってぷるぷるしていた男子高校生があへあへ快楽堕ちするお話です。 主人公 花山 柚木(17) ちっちゃくて可愛い男子高校生。電車通学。毎朝痴漢されている。 髪の色とか目の色はお好みでどうぞ。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

処理中です...