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6章 自我
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あの日から、セラフィリーアは眠ったり目を覚ましたりを繰り返している。
目を覚ます時間が多くなると、次の眠る時間も多くなる。
身体を動かすことはできないが、眼球だけで、部屋の中を見ている。
口を開くと小さな声で呟き、それが微かに聞き取れるか聞き取れないか。
唇を湿らせる程度の水分と、供給される魔力で今は何とか命を永らえている。
その魔力も、決まった相手の物しか受け入れず、それ以外には拒否反応をおこすのだ。
また、いつ目を覚ますのかわからないため、セラフィリーアは最初に運ばれた離宮から移動し、アイヴィスの私室の隣、本来であれば王妃の部屋に移された。
これは、アルトリアの中でも物議を醸し度したが、それをアイヴィスは無理矢理ねじ伏せた。
セラフィリーアの眠る部屋は、常にぼんやりと明かりが灯り、ほんのりと暖かくされており
一日中が春の暖かい陽射しの中にいるようだった。
セラフィリーアに時間の流れを感じさせないようにという配慮からだ。
「アスラン、代わろう」
アイヴィスが遅い時間だが漸く執務を終えて部屋に戻ってくる。
椅子に座りセラフィリーアの手に手を重ねていたアスランは少しだけホッとした表情を浮かべると椅子から立ち上がった。
「お手伝いします」
重い外套を脱ぎ、軽装に着替えるアイヴィスをアスランが手伝うと、ハワードか食事用のワゴンを押しながら運んできた。
「アイヴィス様はこちらで。アスランは奥の部屋に食事を用意をしてあります。
アスラン、貴方は食べたら下がりなさい」
「ありがとうございます。少し仮眠を取り着替えましたら戻ります」
アスランは頭を少し下げるとそっと部屋を出ていった。
ただでさえ少ない人員なのだから、無理をして潰れる訳にはいかないのだ。
セラフィリーアが魔力を受け入れるのは血の繋がった家族、アイヴィス、ハワード、アスランだけ。
先日、ファレナスに居る第1・第3王子に来てもらい魔力を試したところ、この二人は大丈夫だったのだ。
「ハワード、明日、セラフィリーアの2番目の兄であるラーサルディア様が来てくださるとのことだ。
カラクに迎えを頼んであるが……」
「お部屋の準備は済んでおります」
「すまないな……」
「いえ、アイヴィス様も食事を終えたらお眠りください。
横になるだけでも違いますから。
狭いですがセラフィリーア様の隣にソファーベッドを用意してありますので」
何から何までお見通しの侍従長に苦笑しながら手早く食事をする。
セラフィリーアが眠りについてからは何を食べても味がしないのだ。
パンやスープを無理やり流し込んでから立ち上がる。
「セラ……無理はしなくていいが……早く元気な顔が見たい……」
少しだけと、手に触れて魔力を流す。
アイヴィスの手は冷たかった。
目を覚ます時間が多くなると、次の眠る時間も多くなる。
身体を動かすことはできないが、眼球だけで、部屋の中を見ている。
口を開くと小さな声で呟き、それが微かに聞き取れるか聞き取れないか。
唇を湿らせる程度の水分と、供給される魔力で今は何とか命を永らえている。
その魔力も、決まった相手の物しか受け入れず、それ以外には拒否反応をおこすのだ。
また、いつ目を覚ますのかわからないため、セラフィリーアは最初に運ばれた離宮から移動し、アイヴィスの私室の隣、本来であれば王妃の部屋に移された。
これは、アルトリアの中でも物議を醸し度したが、それをアイヴィスは無理矢理ねじ伏せた。
セラフィリーアの眠る部屋は、常にぼんやりと明かりが灯り、ほんのりと暖かくされており
一日中が春の暖かい陽射しの中にいるようだった。
セラフィリーアに時間の流れを感じさせないようにという配慮からだ。
「アスラン、代わろう」
アイヴィスが遅い時間だが漸く執務を終えて部屋に戻ってくる。
椅子に座りセラフィリーアの手に手を重ねていたアスランは少しだけホッとした表情を浮かべると椅子から立ち上がった。
「お手伝いします」
重い外套を脱ぎ、軽装に着替えるアイヴィスをアスランが手伝うと、ハワードか食事用のワゴンを押しながら運んできた。
「アイヴィス様はこちらで。アスランは奥の部屋に食事を用意をしてあります。
アスラン、貴方は食べたら下がりなさい」
「ありがとうございます。少し仮眠を取り着替えましたら戻ります」
アスランは頭を少し下げるとそっと部屋を出ていった。
ただでさえ少ない人員なのだから、無理をして潰れる訳にはいかないのだ。
セラフィリーアが魔力を受け入れるのは血の繋がった家族、アイヴィス、ハワード、アスランだけ。
先日、ファレナスに居る第1・第3王子に来てもらい魔力を試したところ、この二人は大丈夫だったのだ。
「ハワード、明日、セラフィリーアの2番目の兄であるラーサルディア様が来てくださるとのことだ。
カラクに迎えを頼んであるが……」
「お部屋の準備は済んでおります」
「すまないな……」
「いえ、アイヴィス様も食事を終えたらお眠りください。
横になるだけでも違いますから。
狭いですがセラフィリーア様の隣にソファーベッドを用意してありますので」
何から何までお見通しの侍従長に苦笑しながら手早く食事をする。
セラフィリーアが眠りについてからは何を食べても味がしないのだ。
パンやスープを無理やり流し込んでから立ち上がる。
「セラ……無理はしなくていいが……早く元気な顔が見たい……」
少しだけと、手に触れて魔力を流す。
アイヴィスの手は冷たかった。
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