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6章 自我
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あれから数日、少しずつシュクラの身体に回す紐は太くなる。
シュクラも時には嫌そうにするが、それでも頑張ってくれているのだ。
そんなある日、アイヴィスから鞍が届いた。
美しい赤茶色の革に白い花の箔が押してある。
しろつめ草とクローバー。
セラフィリーアの好きな意匠だった。
かなり手が込んでいるが、まだシュクラの身体は小さい。
鞍を乗せるには難しいだろうか、乗せてみたいとねだるシュクラに根負けして、手伝って貰いながら背中に鞍を乗せた。
白い鱗に赤茶の革が映える。
乗せてしまえばシュクラも気にならないくらいに身体に馴染んでいるようで、嬉しそうにシュクラは身体を揺すっていた。
話をきくと、成竜のものよりは小さい。
アイヴィスが気をつかってわざわざ作ってくれたのだろう。
鐙や手綱等も同じ色で揃えられていて驚くほどシュクラが着けると綺麗に見える。
『ルディアスに見て貰いたい…ママ背中乗って!』
離れてこちらをみているルディアスのところに行きたいとぐいぐいと制服のモールを引っ張るシュクラに、もっと慣れてからねと言い聞かせようとするも、興奮したシュクラは止まらない。
『やぁだ、乗って乗って!』
叫ぶように騒ぐシュクラ。
最高位の飛竜を止められる飛竜などいない。
また、人には暴走した飛竜を止める術なとない。
手伝いに来ている騎士に興奮したシュクラの手や尻尾が当たらないようにと下がるように伝えると、
セラフィリーアはそっとシュクラの頭に触れる。
「じゃあ、少しだけね?」
少し遠くに見えるルディアスの所までは障害物などないし、大丈夫だろう。セラフィリーアは簡単に思ってしまう。
伏せるシュクラの背中に跨がり、鐙に足を掛けて手綱を掴んだだけでシュクラは一気に上昇した。
ぐいっと引っ張られる感覚。
周りの騎士が危ないと叫んだ瞬間、セラフィリーアの背中に衝撃がはしる。
「かっ…は…」
衝撃で息が詰まり、肺の中の酸素を吐き出そうとするが上手くいかず、そしてややあってから激しい痛みが襲ってくる。
「シュク…ラ…」
『ママ、ママっ!』
悲鳴にも似たシュクラの叫びにセラフィリーアは手を上げる。
いや、上げようとしたが、実際は上がっているのかいないのか…
自分ではわからなかったが、霞む目の端に見える白に向かって言葉を紡ぐ。
「大丈夫、シュクラ…心配しないで」
それは、言葉になったかならないか。
吐く息が上手くいかないが、きっと上手くシュクラには伝わっているだろう。
自分を呼ぶ声に笑みを浮かべようとしてセラフィリーアの意識は暗転した。
シュクラも時には嫌そうにするが、それでも頑張ってくれているのだ。
そんなある日、アイヴィスから鞍が届いた。
美しい赤茶色の革に白い花の箔が押してある。
しろつめ草とクローバー。
セラフィリーアの好きな意匠だった。
かなり手が込んでいるが、まだシュクラの身体は小さい。
鞍を乗せるには難しいだろうか、乗せてみたいとねだるシュクラに根負けして、手伝って貰いながら背中に鞍を乗せた。
白い鱗に赤茶の革が映える。
乗せてしまえばシュクラも気にならないくらいに身体に馴染んでいるようで、嬉しそうにシュクラは身体を揺すっていた。
話をきくと、成竜のものよりは小さい。
アイヴィスが気をつかってわざわざ作ってくれたのだろう。
鐙や手綱等も同じ色で揃えられていて驚くほどシュクラが着けると綺麗に見える。
『ルディアスに見て貰いたい…ママ背中乗って!』
離れてこちらをみているルディアスのところに行きたいとぐいぐいと制服のモールを引っ張るシュクラに、もっと慣れてからねと言い聞かせようとするも、興奮したシュクラは止まらない。
『やぁだ、乗って乗って!』
叫ぶように騒ぐシュクラ。
最高位の飛竜を止められる飛竜などいない。
また、人には暴走した飛竜を止める術なとない。
手伝いに来ている騎士に興奮したシュクラの手や尻尾が当たらないようにと下がるように伝えると、
セラフィリーアはそっとシュクラの頭に触れる。
「じゃあ、少しだけね?」
少し遠くに見えるルディアスの所までは障害物などないし、大丈夫だろう。セラフィリーアは簡単に思ってしまう。
伏せるシュクラの背中に跨がり、鐙に足を掛けて手綱を掴んだだけでシュクラは一気に上昇した。
ぐいっと引っ張られる感覚。
周りの騎士が危ないと叫んだ瞬間、セラフィリーアの背中に衝撃がはしる。
「かっ…は…」
衝撃で息が詰まり、肺の中の酸素を吐き出そうとするが上手くいかず、そしてややあってから激しい痛みが襲ってくる。
「シュク…ラ…」
『ママ、ママっ!』
悲鳴にも似たシュクラの叫びにセラフィリーアは手を上げる。
いや、上げようとしたが、実際は上がっているのかいないのか…
自分ではわからなかったが、霞む目の端に見える白に向かって言葉を紡ぐ。
「大丈夫、シュクラ…心配しないで」
それは、言葉になったかならないか。
吐く息が上手くいかないが、きっと上手くシュクラには伝わっているだろう。
自分を呼ぶ声に笑みを浮かべようとしてセラフィリーアの意識は暗転した。
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