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4章 想い
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「アイヴィス様、どうかお掛けください」
「いえ、本日はセラフィリーア様の護衛のため、お気遣いは遠慮いたします」
何度めかのやり取りに、セラフィリーアも周囲も苦笑する。
外にあるベンチで、ゆったりとお茶をするつもりでいたが、アイヴィスは斜め後ろに控えているだけで、隣へ座る様子はない。
長四角のテーブルには、可愛らしく飾り付けた菓子やハーブを煮出したティーポットが置いてある。
二人分のティーカップは、セラフィリーアのお気に入りのもの。
「もう、アイヴィス様?いいですから、こっちへ。騎士ではなく恋人でお願いします」
座ったまま振り向きそっと手を上げると、アイヴィスは瞬きをしてからその手を取り指先に軽くキスをしてから
セラフィリーアがずれて空いたベンチにそっと座る。
「アルトリアでは、騎士として、上司と部下としてこんなことはできないかもしれませんが、
ファレナスではそれを咎める人はいませんから」
側に控える侍従達もその辺りは見ないふりをしてくれている。
ファレナスでは、アスランが自分の筆頭侍従であったが、それ以外にも何人か侍従はいたけれど、留学という名目でアルトリアへ行ったため、アスラン以外を連れていかなかった。
もしこのままアルトリアにいる事になっても、ファレナスから誰かに来てもらうつもりもない。
アスランが直ぐに結婚して、退職してもリオルがいるし。
たぶん…たぶん大丈夫。
なんて、つい結婚を前提に考えてしまう。
無意識で注いだティーカップから、爽やかなハーブの香りが立ち上がる。
「ふふ、どうしました?」
顔を覗き込まれてクスクスと笑われてしまうと、ハッとして赤くなる。
「いえ、アイヴィス様…と、こうしていられるのが幸せだと…アルトリアでも、たまにはこうして一緒にいられたらいいなと思っていた所です」
少しだけ言葉を濁しながら伝えると、そんなことかとアイヴィスは笑う。
さらりと黒髪が光を弾いた。
「仕事がありますが、できるだけ私が離宮にうかがいます。
ですから、離宮では恋人でいることにしませんか?
先日は不覚にもセラの前で眠ってしまいましたが…できるだけセラと一緒にいる時間帯が欲しいのです」
「先日のマッサージが気に入ってくださいました?あまり慣れていなかったのですが…
もっとアイヴィス様にリラックスしてもらえるようにもう少しだけ勉強しますね?」
机の下で繋いだ手。
照れ隠しに口を付けたティーカップ。
軟らかな陽射しの降り注ぐ温室に、小さな幸せの花が咲いた。
「いえ、本日はセラフィリーア様の護衛のため、お気遣いは遠慮いたします」
何度めかのやり取りに、セラフィリーアも周囲も苦笑する。
外にあるベンチで、ゆったりとお茶をするつもりでいたが、アイヴィスは斜め後ろに控えているだけで、隣へ座る様子はない。
長四角のテーブルには、可愛らしく飾り付けた菓子やハーブを煮出したティーポットが置いてある。
二人分のティーカップは、セラフィリーアのお気に入りのもの。
「もう、アイヴィス様?いいですから、こっちへ。騎士ではなく恋人でお願いします」
座ったまま振り向きそっと手を上げると、アイヴィスは瞬きをしてからその手を取り指先に軽くキスをしてから
セラフィリーアがずれて空いたベンチにそっと座る。
「アルトリアでは、騎士として、上司と部下としてこんなことはできないかもしれませんが、
ファレナスではそれを咎める人はいませんから」
側に控える侍従達もその辺りは見ないふりをしてくれている。
ファレナスでは、アスランが自分の筆頭侍従であったが、それ以外にも何人か侍従はいたけれど、留学という名目でアルトリアへ行ったため、アスラン以外を連れていかなかった。
もしこのままアルトリアにいる事になっても、ファレナスから誰かに来てもらうつもりもない。
アスランが直ぐに結婚して、退職してもリオルがいるし。
たぶん…たぶん大丈夫。
なんて、つい結婚を前提に考えてしまう。
無意識で注いだティーカップから、爽やかなハーブの香りが立ち上がる。
「ふふ、どうしました?」
顔を覗き込まれてクスクスと笑われてしまうと、ハッとして赤くなる。
「いえ、アイヴィス様…と、こうしていられるのが幸せだと…アルトリアでも、たまにはこうして一緒にいられたらいいなと思っていた所です」
少しだけ言葉を濁しながら伝えると、そんなことかとアイヴィスは笑う。
さらりと黒髪が光を弾いた。
「仕事がありますが、できるだけ私が離宮にうかがいます。
ですから、離宮では恋人でいることにしませんか?
先日は不覚にもセラの前で眠ってしまいましたが…できるだけセラと一緒にいる時間帯が欲しいのです」
「先日のマッサージが気に入ってくださいました?あまり慣れていなかったのですが…
もっとアイヴィス様にリラックスしてもらえるようにもう少しだけ勉強しますね?」
机の下で繋いだ手。
照れ隠しに口を付けたティーカップ。
軟らかな陽射しの降り注ぐ温室に、小さな幸せの花が咲いた。
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