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1章

12話

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此処の全てが盲目の人間の為に作ってあると言っても過言ではない。

「主は昼頃までには参りますので、もう少しだけお待ちください」
「ありがとう」
「こちらはお茶請けになります。木の実を焙煎してありますので、摘まんでください」
「そう言えば…貴方のお名前を聞いていませんでした」
「キラと申します」

柔らかな声は張りもあり聞き取りやすい。

「キラ様ですね…良くしていただいて、ありがとうございます」

失礼に当たるが、座りながら声のする方に頭を下げた。

「そんな!」
「いえ、私は母が盲目でしたので…」
「もしかしてこの屋敷の方でしたか?」
「わかり、ますか?」
「話し方とか、手の取り方…歩く速度…とても助かります」
「そう、ですか…良かった」

ホッとしたのがわかる声音。

「そう言えばティア様は何か楽器を嗜まれますか?」

そう聞かれて嗜むくらいですと笑った。
弦楽器は大半が経験しているが、そこまではうまくない。
母に教わっただけなので、ほぼ独学だと告げた。
まだ、昼までに時間があるため、何か楽器を持ってきますとキラは言って部屋を出た。
美味しいお茶に煎った木の実。
普段の自分の生活とは全く違うこと。
見えていたらこの部屋も綺麗なのだろうか。
見えない目でゆっくりと部屋の中を見回して色々と想像する。
ほんのりと温かいお茶をゆっくり嚥下すると、キラが戻ってきた。

「ティア様、こちらはいかがでしょうか」

ことりと机に置かれたのは12弦の琴。
弦を弾いただけでいいものとわかる。

「綺麗な音ですね…随分と触れたのは前ですが、覚えているかな…」

弦の調律をしてから、誰でも聞いたことのある大衆曲を軽く弾く。

「ふふ、やはり間違えますね…お耳汚しでした」

私はこんな楽器を弾くことができて、幸せな気持ちになった。
誰かに聞いて欲しい…そう思いながら琴を置いた。
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