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1章

10話

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「ティア様のお宅はこちらでしょうか」

ある晴れた日、ガタンと扉が開いて元気な声が聞こえた。

「はい、私がティアですが…どうされましたか?」

長くのびてしまった髪を紐で括り、着替えが終わったので、まだ早い時間だろう。

「主がお会いしたいと…ただ、諸事情により外出ができないから来ていただきたいとのことで、これをお預かりして来ているのですが。
渡せばわかる…と」

両手を差し出した私の手のひらに置かれたのは、いつぞやの竹筒。

「これ…は」
「主の大切な物です」
「そうですか…わかりました、どちらに伺えば?」
「少しだけ距離がありますので、馬車を用意してこざいます。大丈夫でしたらお乗りいただければご案内致します」

「馬車…ですか、そんなに遠くに?」
「歩くには少しだけ遠い距離ですので」
「わかりました…この格好でも宜しいですか?」

あまり数があるわけではない服は流石に切れたりはしていないが、汚れていないかと気になった。

「結構です、着替えはご用意してありますから」

こちらですと、促され、出口に向かうと、動物の吐息。
懐かしい匂いは良く手入れされた馬の匂い。
それも2頭分。

ゆっくりと外に出ると、男性が触れてもいいかと聞いてきて、私は小さく頷いた、
何処に何があるかわからない。
そっと手に触れて導かれたのは男性の肘の辺り。
掴んでくださいと言われて、慣れているなとわかった。

2歩先に馬車があり、2段の段差があって椅子があります。

的確な指示に、その通りに動くと柔らかな椅子に座る。
室内に入る際には男性が頭を打たないようにと屋根の縁に手を添えてくれていた。

とてもありがたい。

それに、何かをするときには必ず声を掛けてくれるのだ。
視覚がないと、情報の大半が得られない。
理解して動くのと理解せずに動くのでは全く違う。

私は軟らかな椅子に腰掛けゆらりゆらりと馬車の乗り心地を楽しむのだった。
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