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1章
7話
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あれから連日、あの男性は決まった時間にやってくる。
夕刻、15時の鐘が鳴った少し後に。
手土産持参で。
それは甘味であることが多い。
しかも、一人では食べきれない量の為にふたりでお茶を啜りながら食べるのが日課だ。
高級な甘味と安いお茶のあわなさに笑えるが、男性は気にした様子もなく楽しそうにお茶を飲んでいる。
そして、特に勧誘も無く日々の会話をしてから夕方には帰っていくのだ。
最初は何をしに来たのか気になったが、来ないとなると心配になる。
カタンと扉が鳴って違うお客だと、無意識のうちに肩を落としてしまっている自分がいた。
「あれ…今日はいらっしゃっていない?」
ふと、夕方の鐘が鳴ったのに気付いて私は無意識に入口を見る。
店仕舞いをしなければと理由をつけて、入口の扉を開いて見えない目で外を見回した。
「良かった、ティア。すまない…遅くなって」
掛けられた声は男性のもの。
そして、ふわりと着物の香が香ったかと思ったら抱き締められた。
「えっ!」
「すまない…間に合わないかと思った…」
「いえ、いつでもいらしてください、開いていますから」
「そうか、今日は顔が見られたし…帰る。また明日…これは食べてくれ」
小さな包みでまだ温かい?
「じゃあ、また」
そう言って帰っていく。
引き留めることはできるはずもない。
夕刻、15時の鐘が鳴った少し後に。
手土産持参で。
それは甘味であることが多い。
しかも、一人では食べきれない量の為にふたりでお茶を啜りながら食べるのが日課だ。
高級な甘味と安いお茶のあわなさに笑えるが、男性は気にした様子もなく楽しそうにお茶を飲んでいる。
そして、特に勧誘も無く日々の会話をしてから夕方には帰っていくのだ。
最初は何をしに来たのか気になったが、来ないとなると心配になる。
カタンと扉が鳴って違うお客だと、無意識のうちに肩を落としてしまっている自分がいた。
「あれ…今日はいらっしゃっていない?」
ふと、夕方の鐘が鳴ったのに気付いて私は無意識に入口を見る。
店仕舞いをしなければと理由をつけて、入口の扉を開いて見えない目で外を見回した。
「良かった、ティア。すまない…遅くなって」
掛けられた声は男性のもの。
そして、ふわりと着物の香が香ったかと思ったら抱き締められた。
「えっ!」
「すまない…間に合わないかと思った…」
「いえ、いつでもいらしてください、開いていますから」
「そうか、今日は顔が見られたし…帰る。また明日…これは食べてくれ」
小さな包みでまだ温かい?
「じゃあ、また」
そう言って帰っていく。
引き留めることはできるはずもない。
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