【BL】小さな恋の唄…盲目の私が恋をしたのは…

梅花

文字の大きさ
上 下
6 / 52
1章

6話

しおりを挟む
雨の降るなか、カタカタンと入口の扉が鳴った。

「どうぞ、開いていますよ」

私は声を掛けて入り口を見た。
中に入ってきた背格好の影を見てふと思い出す。

「背中の傷は大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…あのときは…」
「背中、見ましょうか?後から持っていかれた飲み薬は大丈夫でしたか?」

立ち上がりかけた私の肩を触り、座るように促された。

「大丈夫…助かった」

低く静かな声。
誰かに似ている気がしていたが、わからない。

「今日はどうされまさしたか?何か他の病気でも?」
「…いや、実は頼み事があってきた。
先日、ホウアンという薬師が来たと思うが、是非貴方の薬の知識を教えて欲しいと言うもので、彼の雇い主である俺が来た…どうか頼めないだろうか…」
「申し訳ありません、知識をお渡しするのは構いませんが、私はめしいておりますので環境を変えたくないのです。
どちらのお屋敷の方かも存じ上げませんが、其処へ伺うにも道を覚えなければなりません。また、此処で作業をしても構いませんが、お分かりになる通り狭い場所ですので…」

自分の薬の調合や知識が他と違うのはなんとなくわかっていた。
父親の薬が元になっているからだ。
父親の事も母親の事もあまり良くは知らなかったが、いつも何かから逃げるように住みかを変えていたような気が今になったらしている。
幼い頃はそんなことはわからなかったが。

「それならば、屋敷に貴方の為の家を作る。この部屋そのまま持っていってもいい…どうにかお願いできないだろうか…」
「申し訳ありません…」
「そうか、ならば、これは先日の治療費と薬代だ…置いていく。
悪かったな、また来る…」

チャリンと置かれた硬貨。
扉が開いて雨の匂いが強くなり、ぱたりと扉が閉まる音がした。
机の上に置かれた硬貨は先日告げた枚数より1枚多い。
それよりもなによりもまた来る。その言葉に私は不安になってしまった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

始まりの、バレンタイン

茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて…… 他サイトにも公開しています

処理中です...