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1章

6話

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雨の降るなか、カタカタンと入口の扉が鳴った。

「どうぞ、開いていますよ」

私は声を掛けて入り口を見た。
中に入ってきた背格好の影を見てふと思い出す。

「背中の傷は大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…あのときは…」
「背中、見ましょうか?後から持っていかれた飲み薬は大丈夫でしたか?」

立ち上がりかけた私の肩を触り、座るように促された。

「大丈夫…助かった」

低く静かな声。
誰かに似ている気がしていたが、わからない。

「今日はどうされまさしたか?何か他の病気でも?」
「…いや、実は頼み事があってきた。
先日、ホウアンという薬師が来たと思うが、是非貴方の薬の知識を教えて欲しいと言うもので、彼の雇い主である俺が来た…どうか頼めないだろうか…」
「申し訳ありません、知識をお渡しするのは構いませんが、私はめしいておりますので環境を変えたくないのです。
どちらのお屋敷の方かも存じ上げませんが、其処へ伺うにも道を覚えなければなりません。また、此処で作業をしても構いませんが、お分かりになる通り狭い場所ですので…」

自分の薬の調合や知識が他と違うのはなんとなくわかっていた。
父親の薬が元になっているからだ。
父親の事も母親の事もあまり良くは知らなかったが、いつも何かから逃げるように住みかを変えていたような気が今になったらしている。
幼い頃はそんなことはわからなかったが。

「それならば、屋敷に貴方の為の家を作る。この部屋そのまま持っていってもいい…どうにかお願いできないだろうか…」
「申し訳ありません…」
「そうか、ならば、これは先日の治療費と薬代だ…置いていく。
悪かったな、また来る…」

チャリンと置かれた硬貨。
扉が開いて雨の匂いが強くなり、ぱたりと扉が閉まる音がした。
机の上に置かれた硬貨は先日告げた枚数より1枚多い。
それよりもなによりもまた来る。その言葉に私は不安になってしまった。
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