【BL】小さな恋の唄…盲目の私が恋をしたのは…

梅花

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1章

5話

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「今日は…雨が振りそうですね」

玄関の扉を開くと、少しだけ湿気を孕んだ風が吹いている。
まだ大丈夫だが、半日もすれば雨になるだろう。

「おはようございます、洗濯はお昼までにどうぞ」

周辺に声をかけると、ガタガタと動き出す。

細かい予報はできないが、そのくらいならわかるからと始めた予報はすっかりと主婦達の間に浸透していた。
場合によってはわざわざ聞きに来る人もいるが、必ず当たるわけでもないため、参考程度にとは言っている。

薬師に天候は必需だから。
せっかく乾かした薬が濡れたら効力を失うものもある。
雨が降ったらまた薬を作ろうかななんて作って貰った食事を口にする。
煮物が美味しい。

そんなことを考えながら食事を終えた。

その後、思っていたよりも前倒しで雨が降り始めた。
重くなった空気から、人には聞こえないであろう雨粒の落ちる音。

あぁ、雨だと色々と考えてしまう。
父の事、母の事。

瞼の裏に見える優しいふたりの笑顔は宝物だ。



何日も高熱が続き、生死の境を彷徨った後に世界がゆっくりと暗転していった。
次第に暗く黒くなる世界に恐怖しかなかった。
だが、世界に光がささなくなっても父も母も私を大切に導いてくれた。
見えなくても感じる世界。

父は薬学に精通しており、母は音楽に精通していた。

父から学んだ薬学は、匂い、手触り。
全身を使って作るため、自分の体調が悪いと同じものが作れないため自分の体調管理もしっかりとするようになった。
母から学んだ音楽は、母の楽器と歌。
幸い声も悪くはなかったため、それで少しだけ日銭を稼いだ事もある。

父母はある日、事故で帰らぬ人となった。
いきなりのことだ。
買い出しの途中、興奮した暴れ馬に爪をかけられたらしい。
父は母を抱き締めるようにして逝ったようだ。
母のお腹には、じきに生まれる弟か妹が入っていたのに。

私はすべてを失ってどうしていいかわからないときに私を助けてくれたのが、三軒隣にいたロシュ兄さんだった。
兄と言っても血の繋がりは全く無い。
可愛そうにと言ってくれる他人は沢山いたが、父と母の葬儀まで出してくれ、私がこうして生活できるようになるまでにしてくれた恩人だ。

私より5歳年上で優しかった兄さんは、ある日ちょっと出掛けてくるなんて言って行ったが、その日を境に居なくなった。

どうして?

いくら考えてもわからない。
それでも私は生きていかなければならないと、こうして助けられながら生きている。

母に教わった小さな恋の唄を口ずさみながらゆっくりと闇の中の時間を過ごす。
だが、その生活が一変したのは、その日の午後、雨が上がった頃だった。
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