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1章

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月が綺麗ですね。
今夜は満月。
ぼんやりとしか光を映さないこの瞳にも、月は優しい光を届けてくれていた。
小さな家。
玄関を入り、数歩もあれば全部が網羅できてしまうような室内にあるのは、壁に付けられた小さな引き出しがたくさんある棚。四角い机。
机の上には薬研などの器材。
そこは小さな薬屋だった。
そこから奥に行くと、私が寝起きをする場所で、そちらにも小さな丸い机と寝台があった。
寝台の側に置いてあるのは弦楽器。
弦が6本のこの国では良く見る普通の楽器。
見えない目をゆっくりと閉じてから私は寝台へと、横になる。
明日もまたやらなければならないことが沢山あると思いながら、眠りにつこうとした瞬間、ガタンと音がした。
……誰か来た?
私は起き上がるとそのままゆっくり玄関へ向かう。
ガタンガタン……小さな音がしていて、私はそっと扉を開けた。
「誰かいますか?」
夜のため、大きな声は出せない。
ガタンと音がして、小さな呻き声が聞こえた。
私は慌てて膝をついて手探りで探す。
こんなときに見えないのは不便だと思う。
指先に触れた体温を辿り身体の位置を測る。
「あの、大丈夫ですか?辛いでしょうが中に……布団が」
「……背中……を、斬られた」
微かな声でそう言われると、とりあえず室内へ運び込もうと傷に触れないようにと触りながら相手にも頑張って担ぐと奥の布団へと連れていく。
「とりあえず此処に寝てください。斬られた場所の消毒と痛み止……」
自力で寝台に上がってもらうと、私は消毒の準備を始めた。
「これを飲んでください、丸薬は痛み止ですから……それと、熱も出てくる場合があります、こちらは水……白湯でなくて申し訳ありませんが……」
丸薬に戸惑ったようだが、水ごと押し付ける。
切られているなら焼けるような痛みを負っている筈だ。
「直ぐに効きますから飲んだら少しだけ眠ってください。その間に簡単な治療をしておきます」
早くと、促すと、覚悟を決めたのかその丸薬を飲み込んだ音がする。
私は、鋏やら酒やら白布を用意する。
そして裏口からそろりそろりと外に出て井戸から水を組み上げた。
綺麗な水がこうしてすぐに手に入るのはありがたい。
冷たい水を温めることはできなくて、それを盥に入れて運ぶ。
部屋に入ると、男が動く気配がした。
「この丸薬は?」
痛みが薄れてきたのだろう、男が少しだけ喋る元気を取り戻していた。
男とわかるのは、声の高さ、触れたときの筋肉等から。
「怪しいものではなくて、私の作る痛み止です。少しだけ神経を麻痺させる作用と眠くなる作用も入っていますので……」
「そんな薬は聞いたことがない……」
「私の父が配合した薬ですから……手が動かせるなら服を脱いでいただけますか?無理ならお手伝いします」
「手伝ってくれ」
そう言われると、寝台に近寄り男が居る位置を手探りで探す。
触れたのは肩で、そこからそっと服を探りながら傷に触れるのが少なくなるように脱がせる。
これでいい。
「では、俯になって……傷を洗いますが、水が冷たいですよ?」
声を掛けて濡れた布で背中に触れる。
こびりついた血などを拭うためだ、ぴくりと反応をした身体を指先で感じる。
痛みがあるのはいいことだ。
丁寧に拭くと傷は深くはなさそうで、縫うよりは薬で何とかできそうだと安心した。
「消毒して軟膏をのせます。日が昇ったらお医者さんに見てもらってくださいね」
布を片付けると、その傷の辺りに消毒薬を乗せていった。
「悪い……な、手間をかける…」
「構いません、此処は薬屋ですから……」
俺は一段落して片付けものを始める。
眠くなってきたのだろう、男性からは微かな寝息が聞こえた。
眠れればいい。
私は土間の片隅で横になろうと思いながら暗い家のなかを静かに片付けていった。
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