【BL】空と水の交わる場所~30のお題

梅花

文字の大きさ
上 下
20 / 30

20 一緒に踊る

しおりを挟む
「…ぅ。」

アイヴィスから届けられた豪奢なドレス。
やっぱりこれかとセラフィリーアはげんなりした。

「今年こそは騎士団服でいいと思ってたのに…あれって正装だよなぁ?」

暑い時期になると、王宮を解放しての舞踏会。
打ち上がる花火は毎年楽しみにしているのだが、こればかりは苦手なのだ。
ファレナスでもアルトリアでも式典は正装。
これはわかるんだけれど…わかるけどさ…アルトリアの正装は重い。
何枚も布を重ねて作られた鎧かってくらいのドレス。
確かにふわりと回れば綺麗に翻るのだけれど。

「うーん…よし!」

俺は昔とった杵柄ではないが、アイヴィスからのドレスにハサミを入れる。
その瞬間、アスランとリオルの顔に絶望が浮かんだ。
重なった布を1枚ずつ外し、外側の1枚には大胆にサイドにハサミを入れた。

「アスラン、悪いけれど白の長いスカートと白いキュロット出してきて。リオルは仕立屋に早急に来るように連絡!若くて腕が良いのを選んでね」

ふたりの侍従に声を掛けながらも手は止まらない。

「よし、これで…キュロットを履いてスカート。パニエがあれば…あ、作ればいいのか。まだ時間かあるし。
アイヴィスは怒らないだろうけど…当日まで秘密」

それから、仕立屋を交えての打ち合わせを繰り返してできたドレスを纏う。
アルトリアで昔から着られているアオザイに似た衣装のように前後左右にスリットを入れて腰から下はふわりと広がりを持たせたスカートのようにしたもの。
パニエを試行錯誤しながら作って貰うと最初にアイヴィスに贈って貰ったものとシルエットは変わらない。
エスコートに来たアイヴィスが少し驚いた表情を見せたが、知るか。
着てやるだけえらいだろ?
なんて思いながらその手を取ってホールに入る。
ざわざわしていた声が止み、音楽が流れ出す。

「あー…やっぱりまずかった…かな」

小さく呟くと、ホールドしたアイヴィスが笑ったのがわかる。

「悪くないとは思ったんだけど…」

ダメだったかなぁ…とちらりと見上げると満面の笑みで見下ろされていた。
簡単な会話をしながらもくるりくるりとターンができるのは幼い頃からの反復練習とアイヴィスのリードのおかげ。

「次の式典できっとセラのドレスを真似するものが増えるよ?賭けてもいい。それだけ斬新だけど美しいし流行の最先端になるだろうから」

曲が止まるとゆっくり頭を下げる。
そして手を繋いだまま席についたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

エンシェントリリー

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

憧れていた天然色

きりか
BL
母という名ばかりの女と、継父に虐げられていた、オメガの僕。ある日、新しい女のもとに継父が出ていき、火災で母を亡くしたところ、憧れの色を纏っていたアルファの同情心を煽り…。 オメガバースですが、活かしきれていなくて申し訳ないです。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...