【BL】空と水の交わる場所~30のお題

梅花

文字の大きさ
上 下
16 / 30

16 添い寝

しおりを挟む
「どうしました?寝不足ですか?」

セラフィリーアの小さな欠伸に気付きアイヴィスは声を掛けた。

「すみません、少し寝不足で…」

「生活が変わったのだから仕方ない。ゆっくりと休んでいいですよ?」

ファレナスからアルトリアに来て直ぐ、そんなに繊細でないつもりだったが、眠りが浅いのには気付いていた。
侍従にホットミルクを用意して貰ったり、ゆっくりと湯船に浸かったり、少し長めに散歩をしたりとしているのに、寝台に入ってもなかなか眠りはやってこない。

「いえ、大丈夫です…こんなじゃいけないのはわかっているのですが」

家族と離れたからだろうか。

「眠りは全てに繋がるからな…私で良ければ添い寝でもするか?他人のぬくもりがあった方が寝られる場合もあるしな…どうだ?」

断られるだろうと提案したアイヴィスだったが、意外にもセラフィリーアは考える様子を見せる

「あの、アイヴィス様のお邪魔にならなければ…お願いしても?」

「あ、あぁ構わないが…私がそちらに行こう。早めに仕事を終えるようにして行くが、少し遅くなりそうだ」

「ありがとうございます!」

嬉しそうな満面の笑顔を見せたセラフィリーアに、アイヴィスは大丈夫だろうかと不安になる。
だが、仕方ない。
言い出したのは自分からなのだからと手元の書類を決裁する。

まぁ、これでセラフィリーアとの距離が近くなるのならば良かったのだろう。
できれば添い寝から先にも…と、アイヴィスは無言で思ったとか思わないとか。




その夜、遅い時間にカンテラを手に現れたアイヴィスをセラフィリーアは招き入れる。
軟らかく肌触りの良い薄い夜着で、窓際に置いた椅子に座りながらセラフィリーアはカップを片手に外を見ている。

「風邪を引きますよ?」

後ろからそっと抱き締めると、セラフィリーアの髪からは優しい花の香りがした。

「すみません、アイヴィス様…来ていただいて。アイヴィス様もホットミルクを用意しましょうか?」

綺麗な指でカップを包むようにしたセラフィリーアが、振り返りながら上を向いてくる。
ちらりと見える首筋から鎖骨へのラインは妙に艶かしい。

「大丈夫、それより遅くなってすみません。寝台に入りましょうか」

手にしていたカップをそっと持ち上げてテーブルに置くと、セラフィリーアを抱き上げる。
数歩歩くと寝台にそっと下ろしてから、天蓋を引くと軟らかな明かりだけが部屋に満ちた。

「こっちへ」

セラフィリーアの隣にアイヴィスは潜り込むと、促すように手を開いてセラフィリーアを誘い、セラフィリーアの意思で腕の中に収まるようにさせた。

「これでどうでしょう」

抱き締めるようにしながら、他愛のない会話をしていると、次第にセラフィリーアの瞼が落ちていく。
深く眠れるといいなと、アイヴィスはそっとセラフィリーアの額にキスを落とした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エンシェントリリー

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

【BL】嘘でもいいから愛したい

星見守灯也
BL
奇言(カタラ)と呼ばれる力のある世界。ミツキは友人の彼氏を好きになった。しかし彼は行方不明になり、友人は別の人と付き合い始めた。ところが四年後、その彼が帰ってきて…。 ヒナギ→リツ×ソウタ←ミツキ からの リツ×ヒナギとミツキ×ソウタ

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

処理中です...