上 下
59 / 62
6章

1話

しおりを挟む
「レイモンド様、どうぞ」
リュークにいれてもらったお茶を口にしながら窓の外を見る。
静かに雨が降っていた。
「ありがとう。やぁね、雨だと任務が辛くなるわ」
冷たい雨は体力を奪っていく。
それでも、騎士としての任務は楽しかったのだ。
膝にはひざ掛け。
部屋は寒くないように暖かく保たれている。
「リューク、少し動きたいわ。食欲が戻ってきたから激しい運動はしないけど少しくらいは身体が鈍るわ」
庭付きの屋敷は、外からは木々が目隠しになり中を伺うことは出来ないのを知っている。
ただ、武器など一式は全て騎士団の部屋に置いてきてしまっているため、何か欲しいとリュークに頼むがリュークは首を縦には振らなかった。
「散歩くらいなら可能ですが、これから寒くなる季節ですから許可できません。お身体をご自愛くださいませ」
追加の紅茶をいれたリュークはティーカップをレイモンドの前に置いた。
「もう、大丈夫だってば」
「いけません」
リュークは細く見えても武芸百般で、レイモンドも恐らく組手では勝てないだろう。
そもそも、この身体では組手もできはしないけれど。
「わかったわよ、散歩ならいいのでしょう?」
「はい、レイモンド様どうぞジンジャークッキーです。お好きでしたよね?」
小さめの白い皿に置かれたクッキー。
吐き気のある時はこのクッキーすら口に出来なかった。
ただ、ひとつマドレーヌは何故か食べる事ができたのは、ニコルの好みを受けたからだろうか。
「美味しいわね、ありがとうリューク」
「いえ、マドレーヌもご用意しておりますが」
「大丈夫よ、マドレーヌも好きだけれど今日はいいわ。今度、寒くない時にでも買いに行きたいわね」
まだ、動けるうちに欲しいものは買いに行きたい。
「では、雨が上がりましたら行けるように手配致しましょう」
「お願い」
「かしこまりました」
「リューク、貴方も一緒にお茶をしましょうよ。ひとりは寂しいもの」
ティーカップを手にすると二杯目のお茶を口にした。
「ありがとうございます。では少しだけ」
リュークも、予備に持っていたティーカップを取り出すと、レイモンドと同じお茶をいれる。
「座りなさいよ、どうせアタシしかいないんだもの。たまには手を抜きなさい。ホコリじゃ死なないわよ」
レイモンドはクスクス笑う。
「リューク、本当に貴方は此処にいなくてもいいのよ?食事だけ作りに来てくれるシェフがいれば掃除も洗濯もアタシはできるもの。食事だって食材があれば作れるのよ?だから本当に無理はしないでちょうだい……それがあの人の命であってもね」
レイモンドは静かに言う。
屋敷を貸してくれただけでも御の字なのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたアルフォン伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 アルフォンのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

断罪は決定済みのようなので、好きにやろうと思います。

小鷹けい
BL
王子×悪役令息が書きたくなって、見切り発車で書き始めました。 オリジナルBL初心者です。生温かい目で見ていただけますとありがたく存じます。 自分が『悪役令息』と呼ばれる存在だと気付いている主人公と、面倒くさい性格の王子と、過保護な兄がいます。 ヒロイン(♂)役はいますが、あくまで王子×悪役令息ものです。 最終的に執着溺愛に持って行けるようにしたいと思っております。 ※第一王子の名前をレオンにするかラインにするかで迷ってた当時の痕跡があったため、気付いた箇所は修正しました。正しくはレオンハルトのところ、まだラインハルト表記になっている箇所があるかもしれません。

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

巻き込まれ異世界転移者(俺)は、村人Aなので探さないで下さい。

はちのす
BL
異世界転移に巻き込まれた憐れな俺。 騎士団や勇者に見つからないよう、村人Aとしてスローライフを謳歌してやるんだからな!! *********** 異世界からの転移者を血眼になって探す人達と、ヒラリヒラリと躱す村人A(俺)の日常。 イケメン(複数)×平凡? 全年齢対象、すごく健全

逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。 それが僕。 この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。 だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。 僕は断罪される側だ。 まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。 途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。 神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?   ※  ※  ※  ※  ※  ※ ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。 男性妊娠の描写があります。 誤字脱字等があればお知らせください。 必要なタグがあれば付け足して行きます。 総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。

貧乏Ωの憧れの人

ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。 エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの

処理中です...