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4章覚醒
8話
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「あら、もう出たの?」
執務机に倒れ込むようにしていたレイモンドは扉が開きニコルが戻ってきたのに気付く。
「はい、お待たせしました」
「いいのよ、ほらこっちにいらっしゃい。まだ髪が濡れているじゃないの風邪ひくわよ?」
まだ、髪がしっとりと濡れているニコルを見て拭いてあげるからこっちに来なさいと手招きをする。
レイモンドはそのまま立ち上がり自分の部屋に向かうと、クローゼットの中からバスタオルを取り出してから戻り、ニコルの頭にふわりと掛ける。
「短くしたから乾くのも早いわよね?ソファーにでも座りなさいな」
ほらほらと、ニコルを座らせ少し強めに髪を拭いてやる。
「嫌だったかしら……」
静かに髪を拭かれるニコルにレイモンドは手を止めた。
「いえ、嬉しいです……でも、こんなことをされると勘違いしてしまいそうになります。きっとレイモンド様は今までと同じように接してくださっているだけなのでしょうけれど」
ニコルはうつむき加減でそう告げる。
小さかった身体はいつの間にかもうこんなに大きくなっていた。
「貴方の気持ちには答えられないけれど、今まで通り主従の関係を続けたいと言ったら酷になるのかしら……」
「レイモンド様はそれを望まれますか?」
「ええ、貴方が許すならアタシは貴方の主でありたいわ」
「許さなければ?」
ニコルの喉がこくりと鳴った。
「どうしようかしらね……そうならないことを祈るしかないけれど。貴方がそれを望むなら仕方ないわ」
レイモンドは目を伏せる。
主従でなくなるということは、ニコルがレイモンドを捩じ伏せる。
レイモンド以上の権力を持つと言う事。
恐らくそれはニコルが望めば直ぐにでも叶うこと。
何故ならαは複数の番を持つ事ができるからだ。
「レイモンド様、俺は……貴方の従でありたいです……」
「馬鹿ね、でも貴方はどちらを選んでも辛いでしょうに……どうしてアタシなの?αなら、もっと良いΩを選べるじゃない……流石に運命の番に出逢えるなんてことはないでしょうけれど」
レイモンドは、ニコルの髪を拭いていたタオルを下ろした。
「俺は、生涯レイモンド様だけ……」
「駄目よ、それ以上は」
レイモンドは、ニコルの顔を自分の方に向けて言葉を止める。
「ニコル……目を瞑りなさい、早く」
「はい」
ニコルは長い睫毛を伏せる。
「……今限りよ、もう二度目は無いわ」
レイモンドは、ゆっくり息を吐くとニコルの唇に唇を触れさせた。
「さぁ、これで切り替えて頂戴?明日から働くわよ!」
パチンと、ニコルの背中を叩きレイモンドはおやすみなさいと笑うと自室に向かう。
ニコルはそれを唖然としながら見送った。
執務机に倒れ込むようにしていたレイモンドは扉が開きニコルが戻ってきたのに気付く。
「はい、お待たせしました」
「いいのよ、ほらこっちにいらっしゃい。まだ髪が濡れているじゃないの風邪ひくわよ?」
まだ、髪がしっとりと濡れているニコルを見て拭いてあげるからこっちに来なさいと手招きをする。
レイモンドはそのまま立ち上がり自分の部屋に向かうと、クローゼットの中からバスタオルを取り出してから戻り、ニコルの頭にふわりと掛ける。
「短くしたから乾くのも早いわよね?ソファーにでも座りなさいな」
ほらほらと、ニコルを座らせ少し強めに髪を拭いてやる。
「嫌だったかしら……」
静かに髪を拭かれるニコルにレイモンドは手を止めた。
「いえ、嬉しいです……でも、こんなことをされると勘違いしてしまいそうになります。きっとレイモンド様は今までと同じように接してくださっているだけなのでしょうけれど」
ニコルはうつむき加減でそう告げる。
小さかった身体はいつの間にかもうこんなに大きくなっていた。
「貴方の気持ちには答えられないけれど、今まで通り主従の関係を続けたいと言ったら酷になるのかしら……」
「レイモンド様はそれを望まれますか?」
「ええ、貴方が許すならアタシは貴方の主でありたいわ」
「許さなければ?」
ニコルの喉がこくりと鳴った。
「どうしようかしらね……そうならないことを祈るしかないけれど。貴方がそれを望むなら仕方ないわ」
レイモンドは目を伏せる。
主従でなくなるということは、ニコルがレイモンドを捩じ伏せる。
レイモンド以上の権力を持つと言う事。
恐らくそれはニコルが望めば直ぐにでも叶うこと。
何故ならαは複数の番を持つ事ができるからだ。
「レイモンド様、俺は……貴方の従でありたいです……」
「馬鹿ね、でも貴方はどちらを選んでも辛いでしょうに……どうしてアタシなの?αなら、もっと良いΩを選べるじゃない……流石に運命の番に出逢えるなんてことはないでしょうけれど」
レイモンドは、ニコルの髪を拭いていたタオルを下ろした。
「俺は、生涯レイモンド様だけ……」
「駄目よ、それ以上は」
レイモンドは、ニコルの顔を自分の方に向けて言葉を止める。
「ニコル……目を瞑りなさい、早く」
「はい」
ニコルは長い睫毛を伏せる。
「……今限りよ、もう二度目は無いわ」
レイモンドは、ゆっくり息を吐くとニコルの唇に唇を触れさせた。
「さぁ、これで切り替えて頂戴?明日から働くわよ!」
パチンと、ニコルの背中を叩きレイモンドはおやすみなさいと笑うと自室に向かう。
ニコルはそれを唖然としながら見送った。
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